長続きする良いイベントはどうやって作るの?DJ WATARAIとDJ U-YAに聞く人気イベント「GETBACK!!」の軌跡と想い【2000年~2005年ヒップホップ限定】
音楽をどうやって楽しむか?
それは人それぞれであろう。音楽を家で楽しむ人もいれば、スタジオで制作/演奏をして楽しむ人もいる。そのなかでも現場レベルで、体全体で音楽を体験できるのが「イベント」である。「サウンド」だけではなく、体験を提供する場所として、多くのイベントが世の中では開催されている。特にヒップホップというジャンルは70年代にサウス・ブロンクスのコミュニティにて行われたブロックパーティーから進化しているのもあり、「イベント」という環境は非常に重要である。
良いイベントや大きなイベントに足を運ぶなかで、「このようなイベントってどうやって作るんだろう?」と気になる方もいるだろう。また、イベントに参加するにつれて、「自分もイベントを作ってみたい!」と思う方もいるだろう。今回はそんな考えに対する一例を紹介するために、2000年~2005年縛りのイベント「GETBACK!!」を主宰するDJ U-YAさん、そして毎回メインDJとして参加するベテランDJ/プロデューサーとして数々の功績を残してきたDJ WATARAIさんにお話を聞くことができた。
GETBACK!!
GETBACK!!は2000年〜2005年のヒップホップ・R&B縛りの選曲をテーマに、様々なアーティスト/DJがゲスト出演するイベントであり、毎回その時代の空気感を感じるために多くのオーディエンスを動員している人気イベントだ。2010年に生まれたこのイベントは、元々渋谷のUNDERBARから始まり、Club Asiaを経て、6月9日に8周年を記念してageHa全館でイベントを開催することになったのだ。RESIDENT DJ WATARAI氏とU-YA氏をはじめ、般若、MACCHO & DJ SN-Z from OZROSAURUS、SUGAR SOUL、DJ HASEBE、DJ KANGO、Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORYなど時代を彩る豪華メンバーが一挙出演するので、「GETBACK!! 8th Anniversary Festival」は要チェックである。イベント詳細
そんな8周年を迎え、成長し続けているイベントはどのようにして運営されているのだろうか?彼らのルーツを探ってみた!
➖まずはお二人の経歴というか、音楽のルーツ的なものをお聞きしたいです!
DJ U-YA:DJ自体は20歳ぐらいのときからやっていて、大学卒業してからもバイトなどをしながら活動していました。今から8年前ぐらいから「GETBACK!!!!」自体はやっていたんですけど、最初はオーガナイズというよりは仲間と遊んでるノリでした。今の会社に入り、本当にここ 4年ぐらいでDJもオーガナイズも改めて本格的にやり始めたという感じですね。
➖元々どこ出身なのですか?
DJ U-YA:仙台です!それで大学から東京に出てきたという感じですね。仙台にいた頃は特に音楽とかはやっていなかったです。高校の同級生がやってた昼のパーティーみたいなのに遊びにいくことはありましたが。
➖そこから自分で音楽をやりはじめるきっかけは何だったのですか?
DJ U-YA:大学の寮で、自分たちでDIYパーティーみたいなのやってたんですよね。寮を自分たちで改造して、DJを入れたイベントをやってたのがきっかけですね。
➖それめっちゃ良いきっかけですね。それは大学の公認だったのですか?
DJ U-YA:どっちかというと黙認というか、暗黙の了解って感じでしたね(笑)
➖DJって本番環境で軽く試す機会がないから、始めるのがハードル高いと思う人もいますが、そういう環境があったのは素晴らしいスタートですね。DJ WATARAIさんはいかがでしょうか?
DJ WATARAI:僕は元々高校のときにダンスをやっていて、そこからダンスイベントとかでDJをするようになったんですよね。その流れでクラブでDJするようになったという感じですね。
➖ダンスはどのようにして始めたのですか?
DJ WATARAI:ダンス・スクールとかも通ってましたけど、後はディスコとかにも行って踊ってましたね
➖高校生のときにですか?高校生でディスコ行く人って結構いたのですか?
DJ WATARAI:あんまいなかったですね(笑)場所によっては入れないとこもあったので。
➖ダンスをやる前の、音楽に入ったきっかけは何だったのですか?
DJ WATARAI:中学のときにマイケル・ジャクソンであったり、マドンナであったり、洋楽のポップスが流行ってたんですよね。
➖それはテレビ経由とかですか?
DJ WATARAI:ベストヒットUSAって番組の影響で皆で洋楽を聞いてましたね。当時はまだあまりヒップホップとかなくて、ボビー・ブラウンとかのニュージャックスウィングが流行ってて、それでダンス始めた感じですかね。
ちょうどアフターバブルって呼ばれてる時代で、高校卒業のタイミングでディスコが一気になくなっちゃったんですよね。それで仲間内でライブハウスとかホール借りてダンスイベントやってたんですよね。徐々に渋谷とか六本木中心で小さいクラブが出来はじめて、そういうところでDJすることになった感じですね。
➖東京のクラブシーンと共に進んできたって感じですね!
年代が違う2人がどのようにしてヒップホップ音楽というものと出会ったか?これは非常に興味深い話であった。特にヒップホップやクラブカルチャーがまだ根付いていない時期にスタートしたDJ WATARAI氏のエピソードを聞いていると、彼がにいかに東京のクラブシーンと歩んできたかがわかる。2000年代というと、ヒップホップがポピュラー音楽に変わった時代でもある。そのような時期に音楽をはじめ、DJ WATARAI氏のプレイを見て憧れを抱いていたDJ U-YA氏が今こうやって一緒にイベントをやっているのも、Playatunerにて度々書いている「サイクル」を感じる。そんな大箱に憧れを抱いていたDJ U-YA氏はどのようにして「GETBACK!!」を始めたのだろうか?
「自分たちが率先してフロアで踊ろう!」
DJ U-YA:最初は「イベントを企画するぞ!」という感じではなく、友達と遊んでたって感じでしたね。UNDERBARは60人~70人ぐらいのキャパシティの箱で、100人も入ったらパンパンで動けなくなるような場所でスタートしました。当初は箱主催のイベントで、いち出演者として参加していました。
お客さんが5人~10人の日もあったりとか、そんな感じで何年も続けてましたね。徐々にUNDERBAR店長の業務が忙しくなって、僕が主催を引き継ぐことになりました。
➖どのぐらいの頻度でやっていたのですか?
DJ U-YA:元々2ヶ月に1回の開催だったのですが、開催頻度が増え、毎月開催になりました。5年目ぐらいまでは毎月UNDERBARでやっていました。
➖そうなると次ageHaってヤバイですね!オーガナイズっていきなり「やってくれ!」って言われて簡単にできるものではないと思うのですが、「GETBACK!!」以前ってオーガナイズ経験ってあったのですか?
DJ U-YA:いや、それまでオーガナイズってやったことがなかったので、UNDERBARでやってたものは仲間と話し合いながら色々調整してたって感じでしたね。後は小さい箱ではあるので、「オーガナイズ」しているというよりは遊んでた感覚です。
会社に入ってからは、色んなノウハウを勉強して、「GETBACK!!」に活かしてきました。
➖何を始めるにおいても、小さく始めたり、「自分たちが楽しんでる」って感覚が凄く重要だと思っています。
DJ U-YA:楽しんでる、遊んでるってなかでも、「良い内容がやりたい」ってことは常に全員が思っていて。お客さんを躍らせるために、もちろん良いDJをするのもそうなのですが、「自分たちが率先してフロアで踊ろう!」って出演者で話し合って決めたり、その辺は結構ストイックにやってきましたね。
それを続けることで、自分たちのスタンスに共感してくれて、どんどん仲間が増えたり、イベントの空気感に共感してくれるお客さんも少しずつ増えていきました。
5年目に、自分も会社に入って、会社でイベントをやるようになったんですよね。そこで色々アドバイスとかも頂くようになって、5年目にDJ WATARAIさんに出演して頂けることになりました。「GETBACK!!を大きくしていこう!」という意識になったのは、5年目以降ですね。
➖今お話頂いたことって、仕事みたいな話しをすると「ブランディング」の本質的な打ち出し方ですよね。最近だとインスタグラムみたいに「目に見えるイメージ」がメインになっていて、「表面上のカッコ良さ」がブランディングだと思っている人が多い気がするのですが、その中で自分たちの「想い」を可視化して共感してもらう方法を実施するのがブランディングだと思っているので、凄く興味深いです。結構メディアをやる身としても、その「ブランディング」と「イメージ戦略」の違いには気をつけていて。
DJ U-YA:GETBACK!!は、出演者がお客さんを巻き込んで「一緒に同じ目線で楽しむ」という事が重要だと思っています。出演者が後ろのほうで溜まって腕組んで見ているとか、バーカウンターに固まってるパーティーってよくあると思うのですが、そういうのは自分たちはあまり好きじゃないんです。だからそれらと比べて、何か違うものを生み出したいと思って、DJプレイ以外でもお客さんをいかに楽しませるかということを話し合ってきました。なるべく友達を紹介し合ったり、お客さんと一緒に乾杯したり、現場レベルで何ができるか?ということを考えてきましたね。
➖コンセンサスはどのようにして取っていたのですか?実際に言葉にして出演者に話していたのか?
DJ U-YA:そうですね。メンバーとは打ち合わせを頻繁に行って意思疎通を大事にしています。また、新たにイベントに出演してもらう人には、一度空気感を感じてもらう機会を設けます。そこであまりにも自分たちがやろうとしてることとかけ離れた空気を感じたら二回目は呼ばなかったり、逆に同じ匂いが感じられたらもっと深く話したりしてきました。
➖めっちゃリアルですね。実際にWEBメディアとかでもよくあるんですが、アーティストの名前だけで集客するコンテンツってありますよね。記事でもイベントでも、「どんな想い/内容か?」より「誰の名前を入れるか?」ということを重要視しているコンテンツって凄く多いですが、そのようなコンテンツは一過性のものになる場合が多いです。でも「GETBACK!!」は、想いに共感した人たちを巻き込んだ「コミュニティ運営」をしているように感じました。
DJ U-YA:そうですね。今でこそWATARAIさんにレジデントとして入っていただいているのですが、それ以外のメンバーに関してはDJとして売れてる人ってほぼいないんですよ。皆サラリーマンやいわゆる普通の仕事をやりながらイベントに関わってくれていて。だけど、それぞれ仕事においてその分野のプロだったりするので、そのノウハウを惜しみなくイベントに注いでくれています。イベントが大きくなるなかで、バランスの取れた組織運営ができるようになってきていると思います。
そういうチームに加え、「2000年代」というわかりやすいコンセプトであったり、世の中的にもあの時代がまた注目されていたり、ゲスト的な立ち位置の方が毎回入ってくれたり、先程お話した「お客さんと一緒に楽しむ」というUNDERBAR時代からのスタンスであったり、そういう要素がうまく相乗効果を生み、お客さんが増えてきているのかな?って思います。「GETBACK!!」のトータルバランスが非常に良くなってきているので、新しいことにも挑戦できる素地ができてきたなと感じています。
➖ベンチャー企業の考え方に似てるなって思いました。予算がないなか、最初は小さくてもいいから、いかにコアなファン層をガッチリ掴むかが重要で。そこからそのファンの数を少しづつ増やしていくプロセスを経て結果が出てくるんですよね。今のお話を聞いていて、何かを「0から作る」となると、どの分野もそこは同じ感覚なのだなと思いました。
お客さんが5人〜10人しかいなかった時代から打ち出している理念、そして人々の「共感」を集めて大きくなった「GETBACK!!」がいかに自分たちの想いを「体現」してきたかを聞くことができた。何かを始めるとき、人々は「大きくなった」という結果だけを夢見がちであるが、そのプロセスに学びのヒントがある。そんななか、「GETBACK!!」のプロセスは非常に参考になるだろう。上記の話しもそうであるが、何をやるにしても、その想いを打ち出す「コンセプト」の存在が重要になる。
そんな「コンセプト」について聞いてみる。
「2000年代前半は、私は◯◯をしていた時代だ」
➖DJ WATARAIさんは「GETBACK!!」 5周年から出演されたときは、イベントの理念とかは知っていたのですか?
DJ WATARAI:あまり覚えてないのですが、多分聞かされてなかったと思います。実際にイベントに出てみて、良いと思った感じですね。その時は2000年代〜2005年の縛りで、それ以外の曲をかけたらテキーラ飲まされるってことしか聞いてなかったですね(笑)
➖それエンタメ性があって面白いですね。むしろテキーラ飲みたいから、わざと年代を外して曲かける人もいそうですよね(笑)
DJ U-YA:そうそう(笑)「かけたかったら飲め」って感じでね。
➖2000年〜2005年ってコンセプトは最初から存在していたのですか?
DJ U-YA:厳密に言うと、2004年までだったんですけど、選曲的にツライってのもありまして、一年伸ばしました(笑)
➖コンセプトってイベントを企画する上でめちゃくちゃ重要だと思いますか?
DJ U-YA:そうですね。結果的に2000年代前半に振り切って良かったなって思ってます。年代に区切ることによってお客さんにも「あー、あの頃こんなことしてたなー」って感じてもらうことができているんじゃないかな。それが例えば「2000年代全部」って広げてたら、その感覚が少しぼんやりすると思います。
また、楽曲以外でもアイコニックな物も多かったので、面白い時代だったと思います。ファッションアイコンだったJ-Loのティンバーのヒールとか、B-BOYで言えば、ドゥーラグとか。
➖僕LAの下にあるOCってところで育ったのですが、当時本当に皆G-Unit、Shady、Rocawear、Eckoを着てましたね。中学時代にロックしか聞いてない白人の知り合いに「G-Unitって皆着てるけど何?ブランド?」って聞かれたの覚えてます(笑)
匂いとかもそうなんですけど、音楽って記憶と凄く結びつくので、それをイベントに組み込んでいるのは凄く強いというか面白いですね。現行の物って「今」なので、あまりエモくはならないんですよね。
DJ U-YA:結構イベントづくりをしながら、「コンセプトの作り方」みたいな本とかも読んでみたりしましたね。イベントづくりに直接は関係ないですけど、任天堂のWiiを開発する際のコンセプトの作り方を収めた本を読んで、イベントに活かしていますね。
➖やっぱりコンセプトを一行で表せるのはかなり強いと思っていて。例えば友達に「イベント行こうぜ」って誘うときに、それの伝わりやすさが段違いなんですよね。それが「とあるアーティストが出るから行こうぜ」だと、もしそのアーティストを知らなかったら訴求力が0になってしまうんですよね。
DJ U-YA:そうですね。コンセプトをきちんと理解頂けると、色んなゲストの方に出ていただく場合も、調和の取れた企画に自然となるんですよね。例えば今も週末のハーレムとかでバンバンやってるDJ WATARAIさんが、2000年代前半に縛ったDJをやるとなると、同業者的にも「見てみたい!」ってなるんですよね。ゲストライブアクトに関しては、オリジナルの曲だけではなく、当時USで流行った曲のビートジャックをやってもらったりもしています。
➖それは熱いですね!特にミックステープとかビートジャックって2000年代だと50 Centの功績も大きかったと思うんですよね。それをライブで体感できるのは面白いですね!
イベントをやる上で、「これは大変だったな〜」という難関ってどのようなものがありますか?
DJ U-YA:「GETBACK!!」ではあまりないのですが、他のイベントでは、イベントの方向性が見えてなくて出演者がまとめづらいということはありましたね。やはりコンセプトがとても大切だなと感じています。
・まずイベントとして何を実現したいか?
・どういうお客さんに来てほしいか?
・お客さんにどういう楽しみ方をしてほしいか?
を明確化しないと、出演者の行動規範とかも作れないんですよね。出演者も全員が個性を持っているので、それをまとめるのは最初のほうは大変でした。
➖企業で言う「企業理念」的なところですよね。経営者の理念とかビジョンが打ち出されてないと、社員とかも「なんでこれやってるんだろ?」ってなっちゃうんですよね。
DJ U-YA:
そうそう。もちろん企業が売上を追求するように、集客も求めなくてはなりません。特に「GETBACK!!」の当日客は全体の1割ぐらいで、自分たちが呼んだお客さんが400~500ぐらいなんですね。そのぐらいの規模感になると「なんで呼ぶんだっけ?」とか「どういう目的があってお客さんを呼ぶのか?」ってことが重要になってくるんです。「イベントを盛り上げるぞ!」だけだと、どうしても訴求力が弱くなっちゃうんです。そこで「イベントとしてこういうことをやって、こういうことを実現したいから、皆にお客さんを呼んでほしい」ということは、特にここ最近皆に話すようにしてますね。
コンセプトの重要性を語ってくれたDJ U-YA氏。企業でいう「企業理念」的なところになるが、この一行でわかるコンセプトがあるからこそ、「共感」というものを集めることが出来ているのだろう。彼が任天堂についての本を読んでいたように、イベントに限らず重要になってくるポイントである。「こういうことを実現したい」という理念は、仲間を集める上で非常に重要になってくるが、その「実現したい目標」の「レイヤー」について詳しく聞いてみた。
【後半】へと続く!
http://playatuner.com/2018/05/getback-ageha-djwatarai-dju-ya-2/
・Event Info
・GETBACK!! Facebook
・DJ WATARAI Interview
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