Big Punの息子Chris Riversが語る「児童虐待のサイクル」。社会に問題意識を広める重要性。

 

 

楽曲で何を伝えるか?

それはそのアーティストが生きてきた人生、経験を表したものであろう。「リアル」と呼ばれるものは、その等身大の経験を言葉/音楽として表し、世に出したものが多い。その「経験」と人生観というのはそのアーティストにしか出せないものであり、自分のオリジナリティの根源となる部分でもある。

直近ではTokenという若手ラッパーが語る「学校でのイジメ問題」について紹介した。

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このようにプライベートな経験をリリックとして紡ぎ、世に出すことにより、その経験に共感できる人たちが自分の人生と照らし合わせるのだ。そしてその曲が自分の理解者となり、セラピューティックな役割を担ったり、行動を起こす勇気になったりする。今回はあの伝説的なラッパーのBig Punの息子Chris Riversの楽曲を紹介したい。

Chris Riversに関してはPlayatunerにて一度取り上げたことがある。彼がJay-Zのロックネイションと契約をする噂が一時期流れており、実際にはまだ契約したという事実はないが、彼の動きは注目されている。Big Punの息子と言ったら、多くの人は彼がいい暮らしをしてきたと勘違いするが、彼の生い立ちは決してそのようなことはなかった。この度彼は「Fear of My Crown」という曲にて、自分の家族と父親Big Punとの経験を語っている。

 

動画の説明欄には「この動画は、家庭で起こる精神的/物理的な虐待のサイクルの恐ろしさを表したものだ」と語られている。Chris Riversは「アーティスト」としてのBig Punには、今まで何度もリスペクトを見せてきた。楽曲でも自分の父親が「ベスト・ラッパー」だったと語っており、彼の父親にたいする愛は深いものだと思っていた。しかしそれとは別に、Big Punが家族に暴力を振るっていたという情報も入ってきており、実際にBig Punが妻を銃で殴っている映像も流出していたのだ。

Chris Riversは元々「Baby Pun」と名乗っていたが、父親と比べられないように改名した経験がある。「Big Punと比べられると嬉しいときもあるけど、複雑なんだ。それは彼が2つの顔を持っていたからだ。家族以外の誰も知らない顔を持っていた。だから俺は自分の父親のようになりたくないし、改名した。」と語っている。彼はこの曲で、経験を語りながらも力強く乗り越えたことをラップしている。

そしてレーベルからのプレスには、このような文章が添えてある。

 

外部からChrisの人生を見ている人は、伝説的なラッパーの息子として育ったChrisの人生は「楽」なものだったと思っている人も多いだろう。しかし彼は家庭で頻繁に混乱/不安を目の当たりにしてきた。その経験があるから、彼は児童虐待と家庭内暴力に対して立ち上がる。彼は毎日不当な扱いを受ける家族の現実をこのビデオで伝える。

このビデオでは、複数の世代に渡って家庭内暴力に苦しんだ家族を描いている。母親に暴力を振るう父親を見たこの子供は、自分の父親のような大人になり、自分の子供にたいしてもそのサイクルをリピートさせてしまう。

 

虐待に苦しんだ全家庭がこのようなサイクルになるわけではないが、実際にこれは現実で起こっている問題である。アメリカ合衆国保健福祉省のこちらのページでは、幼少期に虐待された経験がある人のうちの30%が、自分の子供を虐待/ネグレクトする傾向にあるというデータが公開されている。これはまさにChris RiversがこのMVにて語っていることであり、彼が伝えようとしている「サイクル」が現実で起こっているのである。

Tokenが語る学校内でのイジメ」の記事に共通することだが、私はこのような問題の専門家ではない。そのため、何が「正解」かはわからないが、子供を安全な環境で保護する必要性と「居場所」を提供することの重要性を感じる。そして問題の根源をどうにかして改善していく必要がある。30%の人がその「サイクル」に入ってしまうということは、逆に考えれば70%の人がそのサイクルに入らないということだ。その70%を徐々に増やしていくためにも、Chris Riversのように自分の経験をシェアして、社会に問題意識を広めることが「ヒップホップ」アーティストとして重要なのだろう。

そしてこのようなエピソードは「アーティストBig Pun」と「人間Big Pun」などについて考えさせられるものである。これはBig Punに限った話ではなく、多くのアーティストにも当てはまる話である。「作品は作品」であるが、そこに人間性が絡んでくると、整理がつかなくなる人も多いのではないか。Big Punは素晴らしいアーティストであり、偉大なラッパーであることは何も変わらないが、アーティストの作品と過去の過ちについて考えさせられる曲でもあった。

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