J Dillaのプロダクションをブレイクダウンした動画を解説。彼がMPCとビートに与えた「人間味」

 

 

グレイテスト・ヒップホッププロデューサー

という言葉を聞いたとき、誰を思い浮かべるだろうか?DJ Premier、Dr. Dre、Rick Rubinなどの名前は満場一致で出てくるだろう。もちろんPete Rock、Large Professor、Alchemistなども候補に出てくると思うが、その中でも絶対に外せない人物がJ Dillaである。J Dillaは2006年2月7日に亡くなっており、彼の功績を讃える声は後を絶たない。彼に影響されたプロデューサーは数知れず、カニエ・ウェストも彼のDNAを受け継いでいる人物であろう。

カニエ・ウェストがJ Dillaについて語る。J Dillaの凄さとは?

 

音楽を作ったことある人であれば、彼のビートがいかに同時に「型破り&オーセンティック」であったかは理解できるだろう。彼の独特のリズム感、そしてローファイで安心するサウンドはJ Dillaのシグネチャーサウンドとしてヒップホップの世界を変えたと言っても過言ではない。そんな彼のスタイルを簡単に解説した、非常に面白い動画がVoxにアップされているので紹介したい。こちらはヴィジュアルだけでも理解できるものとなっているので、是非チェックしてほしい。

 

こちらはジャーナリストEstelle Caswellによって進行されるミニドキュメンタリーとなっているが、実際に映像としてJ Dillaの音が解説されている。J Dillaのサウンドを説明するときに重要になってくる要素の一つが彼の使用していた機材のMPCである。最初のMPC(60)は1988年にリリースされ、その16個のパッドを含んだデザインは、後の多くの機材のデザインに影響を与えることになるのだ。実際には「録音された音源の一部を使用する」というコンセプトは1930年代には「Lichttonorgel」などの機材によって存在していたと動画では語られているが、AkaiのMPCは値段とサイズによって、このコンセプトを世に広めることになる。

MC/プロデューサーであり、バークリー音楽大学にて教授を務めるBrian “Radar” EllisはMPCについてこのように語る。

 

Raydar:MPC以前からあったドラムマシーンと違って、MPCは「車の助手席」ではなく「運転席」に座るように独自でコントロールできるんだ。自分が想像しているソニックのテクスチャーをアウトプットすることができる。808やLinn Drumは既存のサウンドしか使えないけど、MPCは完全にカスタマイズすることができるマシンなんだ。

 

90年代中盤には、MPC 3000はPete Rock、Dr. Dre、QTip、そしてJ Dillaなどのトッププロデューサーたちが選ぶ機材となった。9th Wonderについて書いた記事でもMPCを使用しているのがわかる。動画では「J DillaはMPCを最大限に使った人物だ」とも語られている。

彼のビートが語られるとき、やはり注目がいくのは彼の「よれたビート」であろう。以前QuestloveがD’Angeloについて語ったときに、D’AngeloとJ Dillaは同時期にこの「よれたビート」を独自に取り入れていったと語っている。J DillaのリズムについてRaydarはこのように語る。

 

Raydar:J Dillaは、皆が当たり前のように使う、とある機能をあえて使わないことによりMPCを「人間」にしたんだ。それがクオンタイズである。人間がビートをプレイしたときに、リズムが少し先走ってしまったり遅れてしまったりする。それを矯正するのがクオンタイズ機能だ。プロデューサーたちはこれ使わないという選択肢がなかったかのように、当たり前に使っていたが、Dillaは使わない選択肢を作ったんだ。

 

これは現代にて音楽を作っている方であれば当たり前のようにわかることであるかもしれないが、この「人間」という箇所にJ Dillaのシグニフィカンスがある。実際に映像で解説してくれているのだが、スクリーンショットでも紹介したい。

上記が実際に4分でかっちりクオンタイズされた状態である。ビートの「頭」となる部分にカッチリ合わさっており、狂いがないことがわかる。しかし実際にJ Dillaの「Lazer Gunne Funke」のバスドラをこちらのリズムに当てはめてみると、下記のようになる。

1、2、3、4、と書いてある黄色い線がオンビートの頭となる部分である。J Dillaのリズムを可視化すると、ここまでカッチリ整理されていないのだ。それが「人間味」溢れるファンキーなビートとなっている。

RBMAにてQuestloveは、このビート感についてこのように語っている。

 

Questlove:このビート感は、俺の人生を変えた瞬間だった。彼は一人で俺のドラムスタイルの全てを変えた。まるで酔っ払ってる3歳児がバスドラを叩いているかのような感じだった。俺は「え?そんなことやって許されるの?」って思った。俺の意識が「解放」された瞬間だった。

 

また、J Dillaのローファイなテクニックについては動画を見て頂けると掴めるだろう。また彼の楽曲では、上に乗っているメロディを気にせずバスドラとスネアをチョップするテクニックも見ることができ、これも型破りな手法であった。

 

そして動画では、彼のスタイルについてこのようにまとめられている。

J Dillaはヒップホップにて存在する手法を全て消化し、その風呂敷を広げた。非常に強い愛と好奇心と忍耐力が与えた結果だ。

J Dillaのビートは一見「オシャレ〜」と感じるかもしれないが、彼のシグニフィカンスはこのような「箱」に溜まった手法を研究/昇華し、それを使用しつつも誰もやっていないサウンドを作ったことにあるように思える。実際に彼はキャリア中にも、ソニック的なサウンド自体は変えているが、そのなかでも聞けば「あ、これはJ Dillaだな」というシグネチャーサウンドを持っているのだ。これに関してはDJ Premierにも共通することのように思える。

実際に彼のサンプリングを体験できるサイトがあるので、やってみては!?

カニエ、J Dilla、9th Wonder等のサンプリング作業を簡単に体験できるサイトが面白い!

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