【インタビュー】The Internet来日公演ショートインタビュー!インスピレーションを保ち、壁を乗り越えるグラミーノミネートバンド
Interview:Kaz Skellington
Photos:Masanori Naruse
LA出身であり、若くしてグラミー賞にもノミネートされたバンドThe Internet(ジ・インターネット)。2011年に結成して以来3枚のアルバムをリリースし、Sydの歌声と体が重い空気の底に沈むような楽曲が幅広い層から高い評価を受けている。Syd、Matt Martians、Patrick Paige II、Steve Lacy、Christopher Smithの5人はこの度2018年1月25日に大盛況となった東京公演を行った。
東京でのライブ直前に10分だけ時間をもらうことができたので、Playatunerとしてショートインタビューを実行した。彼らは当日大阪から新幹線で移動したらしく、富士山を見た感想などを話しながら音楽の話題に入る。Playatunerの一つのテーマとして重要視しているのは、アーティストとして音楽制作する過程であったり、前に進む糧となるような話題である。彼らの制作についての工夫について聞いてみた。
➖ Sydのスタジオでレコーディングをするって聞いたんですが、どうでしょうか?
Syd:Ego Deathに関しては私のスタジオで録ったね。今作っている新しいアルバムのビートは他の色んなスタジオで作ったね。新しい環境で作りたかったし、ずっと同じ場所で作ってると新鮮味がなくなって陳腐になったりする。でも皆それぞれ自分の家にスタジオみたいな環境があるから色々制作面では簡単になるんだ。
➖ いつ頃にスタジオをセットアップしたしたのですか?
Syd:最初は15歳とか14歳だったと思う。そして16歳のときに親が家のゲストハウスを使わせてくれて、そこにスタジオを移した。そのときにOdd Futureの人たちと出会って、皆でそこでレコーディングしたり、DJしたりしてたんだよね。その後はマリーナ・デル・レイにあった私とマットのアパートに移動して、その後は親の地下室にまた戻して、んでハリウッドに移動して、また親の地下室に戻して、私の部屋、家の書斎、そして最終的に今はゲストハウスにあるよ。
➖ 日本にいる音楽制作の環境を持っていない若いアーティストたちをインスパイアしようと、Steve Lacyの音楽制作の方法を記事として書いたりしてます。なのでSteveがどのようにして音楽を作るかは知っていますが、バンドとしてはどのように制作を進めていますか?
Steve:おお、それはクールだね。
Syd:プロジェクトによって毎回方法は変わるかな。前作ではマットの家で制作したり、ロンドン、マリブ、バーバンクとかで移動しながら制作したね。最終的にはAirbnbを借りて、機材を持ち込んで曲を作ったりした。色んな場所でビートを作る感じだね。
彼らの制作にたいする工夫は主に「どのようにしたら飽きずに新鮮味を感じ続けることができるか?」ということがメインなようだ。これは作品を作り続けるアーティストにとって非常に重要なトピックであり、漫画家などでも環境を変えて心機一転するというエピソードは聞いたことがある。Sydやメンバーは頻繁に場所を環境を移し制作をしているようで、特にAirBnbを借りて自分たちが馴染みのない街などで皆で曲を作るというエピソードは非常に興味深い。
そんな彼らの名作である「Feel Good」と「Ego Death」であるが、私は個人的に何かしらのストーリーや、彼らのキャリアポイントからくる想いが込められていると感じていた。自分のキャリアがどんな状態かによってインスピレーションが違ってくるのだろう。そんな疑問を投げかけてみた。
➖ アルバム名について聞きたいんですけど、2013年にリリースされたアルバムが「Feel Good」で2015年に「Ego Death」ですよね。そこにThe Internetのキャリアの状態がストーリーとして現れているのかなと思っていて。良い作品を作って有名になると「良い気分(Feel Good)」になって、その後知名度が爆発して、大勢に認められるとエゴが出てくる。そしてその生まれたエゴを殺さなくいけなくなってくる(Ego Death)…これで次のアルバムも繋がってたら面白いなーとか思ってて。これは考えすぎですかね?
Matt:凄い(笑)
Syd:ちょっと考えすぎかも?
Steve:むしろ君は俺たちに新しい意味をくれたよ…!
Patrick:でも面白い観点だね。実際に筋は通るし、メイクセンスするよ!
Steve:クレイジーな陰謀論みたいに良い感じにワクワクするね。
➖ まじっすか〜よくソーシャルメディアで見る怖いやつになってしまいましたね(笑)
Syd:Feel Goodは単純にクールな響きだと思ったからつけたんだ。あれはとてもイージーに聞ける作品だし、晴れた日に気持ちいい風に当たりながら、シャンパングラスを持ってフィールグッドしたい作品だね。Ego DeathはMattが考えたフレーズだ。
Matt:アルバムが完成した後に、色々なサイケデリックについて調べてたら思いついた言葉だ。いつもアルバムの完成後とかに調べ物をしていると、情報のブラックホールに吸い込まれていくんだ。そのブラックホールの底で「Ego Death」って2つの言葉が思い浮かんだんだ。
➖ 「こいつのエゴをチェックしたほうがいい」って思ったとか、自分のエゴを殺すことはあまり関係ないですかね?
Matt:アルバムが出来上がってから名付けたから、アルバムの内容としては関係ないけど、世間やソーシャルメディアの情勢的にも合う言葉だと思った。誰もが経験することだけど、この言葉を聞くと俺らのことしか思い浮かばない言葉なんだ。
➖ なるほどです。ちなみに新しいアルバムは完成しましたか?
Syd:もうすぐ!まだいつ出るか言えないけど、近々発表できればと思う。
私が感じていた「キャリアの状態」というものは、彼らが意図したものではなかったが、この質問で一気に場は盛り上がった。しかし無意識だったとしても、このタイトルで行こうと思ったからには、少なからず何かしら自分たちと周りの社会から感じ取ったしっくりくる言葉だったのだろう。「Ego Death」はMattが「思いつき」でつけたと言っていたが、ソーシャルメディアと社会の状況ともバッチリあったインパクトがある言葉だった。無意識でつけたと言っているが、実際にこのような社会から受ける影響は感じているようだ。
アーティストであれば感じる2種類のストレスと「Ego Death」という意味に大きくまつわるかもしれないエピソードを教えてくれた。
➖ 音楽活動をしていて「あーもう全部Fuckだ!」ってストレスに感じることってありますか?
Matt:あー頻繁にあるよ。音楽作っていて曲とかが思い浮かばなくて、投げ出したくなることはあるね。まぁ実際に音楽を辞めたくはならないけど、壁にぶち当たって「今日はもうだめ」ってなったりすることはよくあるね。
Patrick:俺は最近まで作ってたソロアルバムでそういう感じになってたな。やっと抜け出したばかりだ。
Steve:インスピレーションがないときはそうなるよね。新しいインスピレーションが湧かないのがアーティストとしては壁になる。
Syd:私は逆に音楽でそういう感じになったことはないけど、「アイコン」であることに疲れたことは多いかな。有名であることに疲れたり、ソーシャルメディアの「レース」から抜け出したいって思ったり。いつも自分について発信していないといけない感じとか。
➖ どうやって乗り越えたのですか?
Syd:一人ひとりの生きる道は違うって認識することかな。あとは自然に振る舞って、色々考えすぎないことが重要かな。だからインスタグラムとかにしばらく投稿していないし、いつも「何かSNSで発信しないといけない」と思うことを辞めたかな。「良く見せないといけない」とか「この写真につける完璧なキャプションが思い浮かばない」とか、そういうことはもう考えないようにした。全てはあるがままに、自然でいたほうが物事は上手くいくって気がついた。
前半のMatt、Patrick、Steveが語っていた「音楽制作での壁」という話からも、彼らが何故頻繁に制作環境を変えるのかが伝わってくる。特にSteveの「アンインスピレーション」という言葉が非常に印象に残っている。「あ、なんか浮かんだ」という状態になるために、毎日に刺激を与えるのだろう。そして逆にSydは音楽でそのような気分にはならないが、どちらかというと「有名人」としての振る舞いストレスを感じていた時期があったと言う。実際には有名人でなくてもソーシャルメディアでの振る舞いに疲れている人は多いだろう。そんな彼女は「人と違う」ということを擁して、生きる道の違いを認識することが大切だと語る。「全てはあるがままに、自然でいたほうが物事は上手くいく」というのは、彼女と話した結果非常に伝わってきた点である。
最後に日本のファンへのメッセージを聞いた。
➖ 日本のファンにメッセージはありますか?
Matt:一つ言えるのは、アメリカにいる人たちは皆日本が最高にクールだと思っているよ。インターナショナルで活動していると凄く不思議なんだけど、日本にいるときは日本人に「え!なんで日本なんかに来てるの!」って驚かれるのに、アメリカに戻ると「え!日本に行ってたの!いいなー」って言われるんだ。でも皆日本の人たちはそれに気がついていないようなんだよね。アニメとかだけじゃなくて、色々新しいものに敏感な気がするんだよね。
Patrick:皆の服装とかファッションは最高だね。皆イカした感性のものを持ってるよ。
Thundercatもそうだが、日本をイケてると思っているアーティストは多い。実際に住んでみるのと外から見ているのだとだいぶイメージが違うのかも知れないが、彼らのようなアーティストがイケてると思い続けるような文化と作品を多く残せたらいいなと、彼らの言葉を聞いてふと思った。今回のインタビューは10分という短い時間であったが、彼らの言葉からは彼らのアーティスト性、そして「バンド」として成長し、困難を乗り越えた強さを感じる。個々の才能や意志が強いバンドは、「バンド」として前に進むのが難しかったりするが、彼らの場合はそれを上手く活かしつつ、個と集団のどちらでもインスピレーションを共有しているのが伝わってくる。
「Ego Death」でグラミーノミネートされた経験が持つ彼らであるが、次の作品はさらなる成長を見せてくれるだろう
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