Joey Bada$$の「俺は2Pacより上手い」発言を徹底的に掘り下げる。彼の意図とは?

 

Joey Bada$$

素晴らしいスキルを持った若手ラッパーはたくさんいるが、その中でも評価すべきはJoey Bada$$(ジョーイ・バッダス)であろう。彼が17歳のときにはじめて彼のラップを聞いたのだが、その時に衝撃を受けたのを覚えている。言葉遊びやリリシズムが10代のなかではピカイチであったのだ。「この17歳はラッパーとして成功して欲しい!」と願っていたが、今となっては彼は20代を代表するMCである。

そんな彼がGeniusのインタビューにて「俺は2Pacより上手いラッパーだ」という発言をしたとして、かなり様々なメディア/ファンからツッコまれているのだ。しかしほとんどの批判している人は彼の意図を理解していなかったり、メディアが「話題作り」のために必要以上に煽ってしまっていると感じる。(そもそも編集の仕方が良くないとも感じる。)Joey Bada$$のファンとして、さらには2PacのファンとしてもJoeyの意図を考察してみたいと感じる。

 

どんな流れで2Pacの話題に?


まずは彼がどのようなコンテクストで言ったのかを理解する必要があると感じる。彼はアメリカで2月に指定されている「黒人歴史月間」について語っている。「小さい頃は2月になると自分の人種についてたくさん知ることができるから楽しかった」と語りながらも「1ヶ月間だけじゃなくて俺にとっては毎日が黒人歴史月間だ」というウィットに富んだ発言もしている。

そんななか、自分が黒人としてリリックを書く上で影響された人物として「マルコムX、キング牧師、マーカス・ガーベイ、ラングストン・ヒューズ」などの歴史的人物に加え「Assata Shakur(2Pacの教母)、Afeni Shakur(2Pacの母)、2Pac」の名前を挙げている。

ここで重要なのは彼がどのような流れで2Pacの話題になったかである。それは「黒人」として、さらには「活動家」として、どのようにして「意志」が受け継がれてきたか、という流れである。このコンテクストを理解するのに、とても重要な一文がこのインタビューにはあった。

Joey:俺は2Pacの言葉と活動で「脳がスパーク」したうちの一人だと思う。

この一文を理解できる人とできない人で、かなり捉え方が違うと感じる。「脳がスパーク」というフレーズは1994年行われた2Pacのインタビューから来ているのだ。

 

2Pacの意志


 

2Pac:少しお金を儲けたとき、人々はもっと裕福な土地に引っ越せと言ってくる。なんでゲットーで盗みが起こるか知っているか?それは彼らがお金も食べるものもないからだ。しかしゲットーから出てきてお金を稼いだ人たちは、外に出ていき、ゲットーから目を背けるようになる。社会はゲットーから話題をとってきて、搾取しているだけなんだ。

俺は自分が世界を変えられるなんて思っていない。でも俺の使命は、俺のことを見ている次の世代が世界を変えることができるように「脳にスパーク」を起こすことなんだ。自分たちの世代で解決できないのであれば、そのことについてラップし続け、若い世代の脳にスパークを起こせば、解決できる世代が出てくるはずだ。

 

上記は1994年に行われた2Pacのインタビューなのだが、このように語っている2Pacの一文をJoeyは使用し、2Pacによって「脳にスパーク」が起きた若者のうちの一人だと言っているのだ。Joey自体は「世界を変えるのは、俺の次の世代になると思う」と言っているが、確実に彼は2Pacの意志を受け継いでいる。

「例えば2Pacや前の世代と共鳴する機会がない若い世代でも、俺と共鳴する人たちはいる。そのようにして意志が次へと受け渡されていく」

と語るJoeyの発言を理解できれば、彼の「2Pacより上手い発言」も理解できるであろう。ヒップホップに限らず、音楽は常に進化をしてきた。その進化のなかで、若い世代は先人たちから学び、先人たちの「ベスト」を越えようと努力をする。そのため、若い世代が「技術的」には上手くなることは必然なのだ。そのため、2Pacの意志を幼少期から受け継ぎながらも、ラップスキルを磨いてきたJoeyならではの発言だと感じる。さらに彼のデビューミックステープの「Waves」でも2Pacのインタビュー音声がサンプルされている。いかにJoeyが「アーティスト/ブラックリーダー」としての2Pacをリスペクトしているのかがわかる。

 

ラップのスキル


ツイッターにて「アーティストとしての2Pacではなく、MCとしての2Pacより上手い」と弁解しているJoeyであるが、リリックの内容はさておき、韻の踏み方や言葉遊び単体ではJoeyのほうが難しいことをやっていると感じる。しかし2Pacの凄みはそこではないのである。2Pacの強みはストレートに伝え、ブラックリーダーとして人々の心を先導してきた「カリスマ性」なのだ。そう考えるとJoeyに関しては、アーティストとしての影響力という意味ではまだこれからに期待というところだ。しかしJoeyの次のアルバム「All – AmeriKKKan Bada$$」では、今まで以上のメッセージを込めてくることが期待できる。トレイラーを見る限り「脳がスパーク」したうちの一人として、今まで以上の社会的にインパクトのある作品になることが予想できる。(追記:リリースされレビューを書きました。)

 

このようにして考えると、彼の発言は擁護をできるどころか、2Pacの意志を受け継いでいるラッパーのうちの一人だと感じる。ケンドリック・ラマーは間違いなく2Pacの意志を受け継いでいるが、Joeyのこのような側面も是非注目してほしい。

Joey Bada$$の「All-AmeriKKKan Bada$$」のリリックから彼が辿った「大人の階段」を考える【1聴レビュー】

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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