Tyler, the Creatorの新アルバム「Flower Boy」のセールスが地味に凄い件。彼のファンベースの強みとは?
クリエイティブな若手アーティスト
というフレーズを聞いたときに誰を思い浮かべるだろうか?もしヒップホップという枠で考えるとしたら確実にTyler, the Creator(タイラー・ザ・クリエイター)かA$AP Rockyが入るであろう。タイラーは音楽だけではなく、洋服から映像まで総合プロデュースする能力を持っている。
そんな彼が7月21日にリリースした新アルバムが「Flower Boy」である。リリースの10日前にはリークしていたので、リリース前から聞いた人は多いと思うが、このアルバムはCherry Bombに比べたら攻めてる感は少ないが、Tyler, the Creatorらしい「後発的じゃない」サウンドとなっている。フランク・オーシャンとのコラボについて語ったこちらの記事が面白いので是非読んで頂きたい。
そんな「Flower Boy」であるが、毎度のこと新譜の売上枚数を調べていたら大変興味深い結果であったので、考察をしたい。2017年といえばかなり多くのビッグタイトルが発売されていると感じるが、実はこのFlower Boyはそのなかでも、かなりいい感じに健闘しているのだ。
HitsDailyDoubleによると、タイラーの「Flower Boy」はストリーミングのセールスを合わせて初週で104,000枚相当売れており、ストリーミング抜きのピュアセールスでみると、74,000枚相当である。同じ日にリリースされたMeek MillのWins & Lossesはストリーミング込み86,000枚、ストリーミング抜きで37,000枚相当となっている。ビルボード2位デビューしたこのアルバムは「Wolf」を超える初週セールスとなった。
これだけだと少しその規模感が伝わりづらいが、実はFlower Boyのストリーミング抜きのピュアセールを超えたラップアルバムは2017年には3枚しかないのだ。それはケンドリックの「DAMN.」、LOGICの「Everybody」、Drake「More Life」である。ストリーミング抜きで見ると、「Flower Boy」はDJ Khaled、Big Sean、Future、2Chainzの最新アルバムよりも初週の数字が上なのである。これは非常に面白い数字だと感じる。世間的に見ると、上記で挙げた4人のアーティストのほうが売れているようにも感じるが、ストリーミング抜きのセールスを見ると、タイラーの強さが際立つ数字となっている。
さらにタイラーの新譜は事前にリークされていたので、もしリークしていなかったらストリーミング込みの数字も増えていたかもしれない。ここでわかるのは、彼の曲を実際に買うファン層の多さである。日本では今だにストリーミングに対する議論などが行われているが、アメリカでは業界モデルがシフトしてからもう何年も経つ。しかしそのなかで、彼のようなカルト的なフォローイングを獲得するアーティストの音楽は「売れている」のだ。
タイラーの場合は、彼の初期から一貫した唯一無二のキャラ、世界観、Odd Future、後発的じゃないサウンドにドップリハマったコアなファンが多いのだと感じる。流行りの音楽を追うのではなく、自分にしかできないことをトータルコーディネートすることにより、深いところまでいく「ファン」が増えているのである。流行りの音楽をやっているアーティストは、深いファンを獲得するのに苦戦するのもあり、一度世間的に落ちぶれてしまうとカムバックができないアーティストが多い。
その観点でも見ても、タイラーの前作「Cherry Bomb」は初週売上が58,000枚であり、一度はファンベースが減ったようにも思えたが、今作でその2倍を達成するまでの復活を見せた。彼のハードコアファンの多さと熱量に驚くばかりだ。実際に彼のアルバムは毎度のことジャケ含めてかなりクオリティが高いものとなっており、パッケージ作品としての価値は高いだろう。日本ではストリーミングに否定的なアーティストがまだ多いと感じるが、彼の活動スタイルや世界観の作り方から学べることはあるだろう。フィジカルのセールスとストリーミングで売上を最大化させるヒントが彼の活動から読み取れる。インディーズアーティストが学べる事例は下記がオススメだ。
ライター紹介:Kaz Skellington カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。
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