St. Louisという土地について調べてみる。ネリー、Chingy、マーフィー・リーなどを輩出した土地と音楽

 

 

土地柄と音楽

に相関関係はあると思いますか?私はある程度はそのような相関関係があると感じている。もちろんインターネットが発達した今では、どの地域のアーティストも他の地域のスタイルをやることは簡単である。しかしその地域のオリジネーターたちは、独自のサウンドを持っていた。以前Smif-N-WessunのTekをインタビューしたときにも話したことであるが、例えば90年代のブルックリンヒップホップと言えば、冷たくラフなイメージがあるだろう。LAといえば、90年代はG-Funkなどのドライでかつアグレッシブなファンクトラック、2010年代は前衛的なビートシーンを思い浮かべる。

Dr. Dreの1stアルバム「The Chronic」G-Funkを定義付けた名作

このように、オリジネーターたちが作り上げた地域のサウンドというものはその後、イメージとして語り継がれているのだ。

先日なんとなく小学生のときに聞いていたラッパーたちが、どこの地域出身なのかを考えていたときに、気になった地域があった。それはSt. Louis(セントルイス)という土地だ。ヒップホップと言えばNY、LA、ATLなどの主要な都市があるが、2000年代初頭にはSt. Louis出身のラッパーたちが頭角を現していたのを思い出したのだ。私は正直St. Louisに行ったこともなく、全く詳しくないのだが、この地域の音楽に対してとあるイメージを抱いていた。それは「明るくて楽しそうなサウンド」である。

それは2000年代初頭にネリー、Chingy、マーフィー・リー、J-Kwonなどのアーティストによって作られたものであろう。ネリーの歌とラップを合わせたスタイルが及ぼした影響は計り知れない。当時小中学生であった私からすると、ネリーやChingyは毎日のようにクラスでも話題になるアーティストであった。

小学生の私たちも楽しめる音楽であり、ランチライムにピザを買うための列で友人たちとNellyの「Hot In Herre」を歌っていたのを今でも思い出す。さらには「Tipsy(ほろ酔い)」の意味もよくわからずに、J-Kwonの「Tipsy」をひたすら練習していたのはいい思い出である。CD屋でいつものようにうろついていたら、黒人家族に「1 here comes the 2 to the 3 to the 4からはじまる曲知っている?」と聞かれ、店員でもないのに案内したのも何故か鮮明に覚えている。それほどSt. Louisのラッパーたちは、小学生の私にとって大きな存在であった。「リアルなヒップホップじゃない」と言われていたかも知れないが、非常にキャッチーであり、若者たちを一気に取り込んだのである。

 

しかしそのイメージとは裏腹に、大人になって知ったSt. Louisという土地は決して治安が良い場所ではない。むしろ2016年にFBIはSt. Louisを最も危険な都市として発表し、2015年には200人弱の人たちが殺害されている。非常に危険な場所である。そのような意味でもヒップホップサウンドとして表れているSt. Louis像と、St. Louisの実態には差があるのかもしれない。

ミズーリ州は元々ジャズやブルースにとって重要な街である。Chuck Berry、チャーリー・パーカー、パット・メセニーなどが生まれた土地でもあり、音楽史に残るアーティストたちが多く排出されている。そのなかでもヒップホップサウンドを確立したのは確実にNellyの2000年のデビューアルバム「Country Grammar」であろう。米国だけでも1000万枚の売上枚数を突破している大ヒット作品である。

St. Louisが治安の悪い地域ということを踏まえて、再度「Country Grammar」を聞いてみると、印象が変わる。「サウンド」としては、Cash Money Recordsのような南のサウンドから影響を受けているが、非常に明るいサウンドである。しかし内容にフォーカスしてみると、完全に明るいわけではないことがわかる。例えばNelly初のシングル曲となったCountry Grammarもサウンドとして聞くと非常に明るい曲であるが、サビでは「俺はお前のストリートにレンジローバーで向かう、銃をロードしてある道の掃除屋だ。」というなんともストリートなリリックを披露している。私は当時聞いていたとき、「Nellyも流行りに乗ってギャングスタ感を出しているんだ」と思っていたが、St. Louisの原状を知ってから「Nellyってリアルだったのかもな…」と思うようになった。もしかしたらSt. Louisのスタイルというものは、「ストリートでハードな内容を、誰もが楽しめる楽しいサウンドでやる」というものだったのかもしれない。Nellyを「リアルではない」と批判する人たちも多かった印象であるが、実はSt. Louis出身の彼はそこら辺のラッパーたちよりリアルだったのかもしれない。

Nelly、Chingy、マーフィー・リー、J-Kwonのようなラッパーたちに共通するのは、そのような点であるように感じられる。危ない地域で生活し、大変な毎日を過ごしているが、それを非常に明るいサウンドで表現するのだ。もちろん例外もあるだろうが、このような観点でみると、少しづつSt. Louisという土地のサウンドが見えてくる気がする。当時St. Louisは次のヒップホップの聖地になると言われていたが、NellyやChingyなどのアーティストが音楽の表舞台から徐々にフェードアウトしていった以降、あまり名前を聞かなくなった。

The Guardianの記事では、St. Louisには世に出るべきタレントは多く存在しているが、なんとその多くが話題になるとともに殺害されてしまうと報道されている。ネットで調べる限り、恐らくシカゴのドリルと同じような状況になってしまっているのかもしれない。現地に行ったこともない私がこのようなことを言うのも非常に無責任であるが、この状況をどうにか改善し、再びSt. Louisがヒップホップのマップに現れる日を期待している。その間にはTech N9neのStrange Musicに所属しているStevie Stoneなどのラッパーを聞いて応援しよう。そしてこの地域に詳しい方がいたら、是非色々お話しを聞いてみたい。

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ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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