「作品を温める時間を取りすぎると自信をなくす」Evidenceの新アルバムを影響した「人生フェーズ」と父親であること
メインストリーム
ではないが、ベテランとして多くのヒップホップファンから愛されているMC/プロデューサーという存在は多い。トップチャートに常にランクインしているわけではないが、コアなファンが多く「ロンジェヴィティ」という意味でアーティストとして成功しているアーティストのうちの一人がDilated PeoplesのEvidenceであろう。
そんな彼は新アルバム「Weather or Not」をリリースしたのだが、Evidenceらしい温かみを持ちつつも、コールドなビートの上で重いラップをしているなかなか素晴らしいアルバムとなっている。そんな彼が新アルバムの製作について語っているインタビューが興味深いので紹介をしたい。
上記の動画では彼は「Jim Dean」と「Throw it All Away」を披露しつつ、今回のアルバムについての製作と人生について語っている。これが先日公開したThe Internetのインタビューと内容的に繋がってくるのだ。
➖ このプロジェクトは今までの作品より「人生」から受ける影響が大きかったと思うんだけど
Evidence:そうだね。このプロジェクトは今までのプロジェクトと違うクリエイティブプロセスだった。作品を作るときには他の物をシャットアウトして、自分の空間に入り込んで作るのが良いって言う人もいたりするし、だからいつもと違う環境を借り上げて製作したり、誰にも居場所を教えずにスタジオに篭もるのもアーティストとしては理解できるんだ。作品を作るために、外界をシャットアウトして、他の日常的な責任を忘れて製作する必要があるときもある。
でも今回は人生で色々起こっていたからその期間を取ることができなくて、ちょくちょく作ってる感じになったんだ。それはクリエイトする上であまり健康的ではなかったりする。自分の音楽を「温め」たり、疑問を持つのはあまり良くないんだ。自分が作ってる物を信じて、そのまま素早く飛行させるのが理想的だ。作品を温める時間を取りすぎると、クレイジーになってくる。まるで絵の全体像を一度も見ていないのに細かい箇所だけずっと修正しているサイクルに陥る。だから今回の作品は、長く時間を取ってしまったために、自分の自信が曇り始めていた。
今回のアルバムは今までの作品と違い、人生の責任から自分をシャットアウトして製作するスタイルではなかったと語る。これは先日公開したThe Internetのインタビューにて彼らが語っていた「製作のためにAirBnbを借りて、皆でいつもと違う環境で製作する」という旨と似ているだろう。しかしEvidenceは「人生フェーズ」における出来事が多かったため、今回は製作だけに集中することはできなかったと語る。そのように作品に「熱量」がこもっているうちに世に出せないと、徐々に自身がなくなってくる。しかし結果的に彼は全てを良い方向に収束することができたのだ。悪い方向に考え始めたときに、軌道修正をしてくれる存在について語る。
Evidence:そこでAlchemistとかSiddiqのような自分が信頼できる友達たちの力が必要になってくる。一旦そのメンタリティになると、「大丈夫、お前はいい仕事しているからそのまま作れ」って言ってくれる人が必要になってくるんだ。もちろん「◯◯は好きじゃないから、抜いたほうがいい」みたいなアドバイスはくれる。だからこのアルバムのエグゼクティブ・プロデュースはAlchemistって表記されているんだ。作品を作って、それをそのまま誰にも聞かせないで放置していると、ちゃんと評価ができなくなる。
彼はAlchemistとRhymesayersの代表のSiddiqをある意味「プロデューサー」として迎え、意見を聞いたのだ。自分の意識と熱量が作品に集中しているときは、その作品が収束しているが、期間が長引くと徐々に意識が様々な方向に飛んでいくようになってしまう。Dr. DreのDetoxがまさにそうだったのかもしれない。そんなときに、その「収束」へ向かうために「客観的」に見ることができる人の存在が必要となってくる。Evidenceの場合は長年のコラボレーターであり、「仲間」であるAlchemistだったのだ。そんな「仲間」と人生をかけることができる存在の影響をこのアルバムは大きく受けている。
Evidenceの「人生フェーズ」はこの「Weather or Not」に大きく影響している。彼は2015年の12月に息子が生まれ、父親になった。その後、息子の母親となる彼のパートナーに乳がんが見つかった。彼は「アーティスト」である自分のためだけではなく、息子とパートナーのために人生を捧げるようになり、その変化も作品として見ることができる。そんな人生フェーズがいかに自分の製作と仕事に影響を与えたかを彼はビルボードにて語った。
Evidence:父親になり、全てが変わった。今まで気がつかなったことに気がついたんだ。息子は俺の真似をする。俺のように歩くし、俺のように動く。そして俺のような見た目になる。それを見て、とあることに気がついた。もし俺が彼のために、彼の側に居てやれなかった場合、俺ではない他の人を真似するようになる。彼と過ごす時間と、父親として彼に与える影響がいかに大きくて重要かを思い知った。もし彼にとって最も大きな影響になれずに、他の人がそうなったら、俺は失敗したことになる。
彼は父親となり、ファミリーマンになったからこそ、今回の作品のクリエイティブプロセスも変わったのだ。そんななか、クリエイティブプロセスで迷ったときに助け船を出したのがAlchemistであり、前に進むモチベーションとして家族の存在が大きかったのだ。「Father Figure」として息子の人生にとって自分の存在がどれだけ大きいかに気がつき、パートナーと人生歩むようになった彼のアルバムは、今までと違う「人生フェーズ」を感じることができる作品だ。
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