Dr. Dreの1stアルバム「The Chronic」G-Funkを定義付けた名作
Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)
Dr. Dre – The Chronic
ヒップホップファンであれば、Dr. Dre(ドクター・ドレー)のソロデビュー・アルバム「The Chronic」を一度は聞いたころがあるであろう。G-Funkサウンドを定義付けた作品であり、ヒップホップの歴史において最もインパクトのあったアルバムと言っても過言ではない。まさにクラシックの名にふさわしい作品である。
この作品で注目すべき点の一つとしては、25年たっても色あせないそのプロダクションのクオリティである。
このアルバム以前のヒップホップは、ほぼ全てのパートがサンプルによって作られている曲が多かった。しかしこのアルバムでドクター・ドレーは生演奏の楽器を使用したことにより、サンプルの古き良き音以外にも、今までにないフレッシュさを追加することに成功したのだ。もちろんドレーはN.W.A.時代にも生楽器を使用していたが、このアルバムほど新鮮なサウンドとはなっていない。
そしてヒップホップのテンポ感をグッと下げ、サウンドを全体的に重くするスタイルも、このアルバムが広めたと言っても過言ではない。P-Funkのような重いベースラインの上にOhio PlayersのFunky Wormに影響された高音のシンセメロディ(歯医者サウンド)は、この作品がリリースされた後の4年間ほど、ずっとシーンのスタンダードサウンドとなっていた。アメリカだけで570万枚売れたこのアルバムが、ヒップホップの時代を変えてしまったのだ。
使用されているサンプル
とはいえ、この作品も多数のサンプルを使用している。そんなThe Chronicに使用されたサンプルはこちらからチェックできる。
ヒップホップドラムの超定番、Honey Drippers “Impeach The President”のブレイクからイントロがはじまり、2曲目“Fuck wit Dre Day”ではヘヴィさを演出するFunkadelicの“Knee Deep”のベースラインが使用されている。このイントロから2曲目に入る移り変わりも素晴らしい。
さらにはLeon Haywoodの“I Wanna Do Something Freaky to You”をサンプルすることにより、メローな西海岸サウンドも確立した。
私が個人的にこのアルバムで気に入っているサンプルは、“Let Me Ride”にて使用されているParliamentの“Mothership Connection”である。原曲から読み取れる「新時代につれていく」という「ソウル」、そしてそのバトンを、ドレーがG-Funk時代を作り上げるために受け取ったと感じることができる。この“Mothership Connection”と“Let Me Ride”が、どこからきてどこへ向かうのか、という内容を詳しく考察した記事を後日投稿するので、是非TwitterやFacebookをチェックしてほしい。
The Chronicに込められた意味
The Chronicとは質の高いマリファナの種類である。N.W.A.時代のドレーはマリファナを吸うことはなかったらしいが、デス・ロウ・レコードを立ち上げ、Snoop Dogg(スヌープ・ドッグ)がスタジオに出入りするようになり、徐々に吸い始めたとのこと。N.W.A.の“Express Yourself”では「I don’t smoke weed(俺はウィードはやらない)」とリリックで語っているが、デス・ロウの皆がスタジオで吸っていたため、自分もハマってしまったらしい。
そのため、アルバムジャケットは巻きたばこの紙を作っていることで有名なZig-Zagのオマージュとなっている。
このアルバムのイントロから2曲目は、「ドレーの快進撃がこれからはじまる」と言わんばかりの内容となっている。特にその2曲では、元グループメンバーのEazy-Eにたいして、ハードにディスっており、今まで自分を金銭的な面で認めてこなかった彼にたいしての見返しと言っても過言ではない(実際にEazy自身がお金をちょろまかしていたのかは、定かではない)。ドレーの「新しい自分」と「新しい時代」をつくりあげる意思表明であろう。
ドレーとEazyのビーフについてもまた後日詳しく考察記事を書きたいので、ここでは書かないでおく。(追記:こちらに書きました)この曲ではスヌープ・ドッグの力も借り、Eazy以外にも東海岸のTim Dogなどにたいしても反撃している。
・西海岸/東海岸ビーフシリーズ② デスロウとバッドボーイ 〜悪化する関係性〜
いろいろ情報が散漫してしまったが、そんなThe Chronicは確実に名作であり、ヒップホップ界だけではなく音楽業界に多大な影響をもたらした名作である。私個人的にも最も影響された作品と言っても過言ではない。2017年に聞いてもフレッシュに聞こえるこの作品は、後のG-Funkムーブメントのはじまりでありながらも、最もクオリティが高い作品だと感じる。
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