TDEの代表TOP DAWGとケンドリック・ラマーが語る。レーベルの姿勢やアーティストとの関係性について。
現代で最も偉大なインディーズレーベル
ケンドリック・ラマー、Jay Rock、Ab-Soul、ScHoolboy Q、SZAなどを抱えるTOP DAWG ENTERTAINMENT(TDE)の名前を聞くときに思い浮かぶことだ。間違いなく2010年代のヒップホップで最重要なレーベルであり、なんとビルボードによるとヒップホップ/R&B全体の5%のマーケットシェアを持っているほどのレーベルに成長した。そんなTDEとやケンドリックの話は以前から取り上げてきた。
TDEの話はこれからアーティストとして活躍したり、自主レーベルを立ち上げようとしている人にとって参考になる話であろう。滅多に表に出てこないTDEの創業者であり代表のAnthony Tiffith(アンソニー・ティフィス 通称:TOP DAWG)であるが、この度彼がBillboardのインタビューにケンドリックと登場したので、そのなかで印象的だった点を紹介したい。Via Billboard
➖ レーベルのアーティストのクリエイティビティをどのように刺激したか。
TOP DAWG:俺はLAのギャング活動がかなり盛んだった時期に育った。友達の多くは殺されたし、牢屋に入った。俺も撃たれた。TDEのアーティストを集めたとき、彼らに違う世界を見せることが俺の責任だった。そこで俺がやったのが「スタジオに閉じ込めて、兄弟としての繋がりを作る。そして少しストラグルさせる」ということだった。俺はやりたいことをやるための充分な金を持っていたけど、単にその金をアーティストたちに渡しても「ありがたみ」を感じないだろうから、そう簡単には渡さなかった。だから彼らはマクドナルドの$1メニューのためにマクドナルドに頻繁に行ったり、安いフライドチキンをゲットしたりしていたよ。そのなかでも彼らも「家族」として受け入れた。皆の拠点となっていた家には俺の家族も住んでいたからね。
アーティストたちがスタジオにこもり、夢中になれる空間を提供することにより、自分とは違う世界を見せることに成功したと語るTop。これはヒップホップ、音楽、スポーツ、スケートボードなどの最大のメリットとでも言えるだろう。若者が何かに本当に夢中になり、自分の人生の目的が見えるようになってくると、自然と道を踏み外す可能性が少なくなってくる。Topは音楽業界に入る前の活動により充分なお金を持っていたが、それをアーティストたちに無条件で渡すことはなかった。努力して得たものだった。さらに彼はアーティストをエンパワーするような内容を語った。
TOP DAWG:まさに初期の「グラインド」している感じは懐かしいし、今では感じられなくなってしまったな。何も約束されていない状態だったけど、業界を乗っ取ることができるような才能はあるという自信があった。で、その後にワーナーと契約して、クソみたいな状況になった。(Jay Rockが契約したが、アルバムの度重なる延期で離脱)
そのときに、落ち込んでいた皆を再度奮い立たせるために全員を集めてこう伝えた。「これからよりハードに活動する。レーベルとの契約を追いかけるのはもうFuckだ。逆に皆が追いかけたくなるようなレーベルに俺らは絶対になってやる。」
そういう意味ではDr. DreとAftermathとケンドリックが契約したのは良いことだった。皆Dreのことが好きだったし、彼は俺らと同じような状況からカムアップした人だ。彼の庭に出ると、世界の全てが見渡せる。そこから自分のフッドを見たのは、インスピレーションだった。
そしてDreはこう言った「Top、お前はこの全てを得ることができる。お前らは勝ちながらここに来た。だから自分の方法をやり続けろ。」
とにかく「漫画かよ…」と言いたくなるようなDreの台詞であるが、このインタビューで非常に重要なのはその前の点であろう。「これからよりハードに活動する。レーベルとの契約を追いかけるのはもうFuckだ。逆に皆が追いかけたくなるようなレーベルに俺らは絶対になってやる。」という部分である。これはレーベルだけではなく、アーティストや会社にも言えることである。これは先日書いた「アーティストが搾取されないために作る”レバレッジ”」という記事にかなり共通することだ。
自分のコンテンツなどがまだ信頼されていないため、不利なビジネスをやらされるぐらいだったら、自分で有利に立てるようなプラットフォームを作ることが、搾取されないためには重要なのである。それがまさに長期的なビジネス/ブランディングに重要な「レバレッジ(影響力)をつくる」という概念である。TDEはワーナーとの契約の失敗から、まずは独自でアーティストのバズを作ることの重要さを学んでいる。SZAがデビューながらRCA Recordsと相当有利な契約を結べたのも、先に「レバレッジ」を作ったからである。
さらにケンドリックとTDEは2人の関係性についてこのように語った。
➖ 2人の関係性をどのように表現しますか?
TOP DAWG:俺は彼の選択を信じているし、彼は俺の選択を信じている。俺がもし変なことを考えていたとしても、彼の電話で俺の全ての意見が変わることもある。
ケンドリック:彼みたいな人はフッドではあまり見かけないんだよ。フッドの人の多くは、人が失敗することを望んでいたり、同じ場所まで降りてくることを望んでいたりするんだ。逆に成功した人は、他の人たちに成功をしてほしくないと思っている人もいる。もしTOPがいなかったら、俺は金と音楽のプラットフォームを持っているにも関わらず、何もしていない人になっていただろう。彼がガイドしてくれたから、俺は次の世代の若者をインスパイアするための活動をすることができている。
このケンドリックの発言に「ヒップホップ」の重要な要素が詰まっているように思える。Vince StaplesやSmif-N-WessunのTekが言っていたように、フッドには「Crabs in a Bucket」というフレーズがある。それは「カニがバケツから脱出しようとすると、下にいる他のカニが脱出しようとしているカニの足を引っ張るため、どのカニもバケツから脱出できない」という内容である。そんな環境であったが、TOPはケンドリックや他のアーティストの成功のために、全力で彼らの才能と夢を信じたのだ。そしてその「信頼」を感じてアーティストとして成長したケンドリックは、次の世代をインスパイアするために活動する「偉大なアーティスト」となった。この勇気とインスピレーションの連鎖が非常にヒップホップらしいと感じる。
このように偉大なアーティストの裏には、様々なストーリーがあり、その周りの重要人物にもストーリーがある。これらのストーリーを学び、自分の生きている環境に置き換えることにより、少しずつ環境が良くなるのかもしれない。
(Thumbnail: Facebook)
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