Vince Staplesの「Big Fish Theory」は6月リリースのベスト?誰にも擦り寄らない彼の音【一聴レビュー】

 

 

今熱い若手

の中でも、私が特に熱いと思っているのがVince Staples(ヴィンス・ステープルズ)である。彼のパーソナリティ的な面に関してPlayatunerにて何度か取り上げており、彼の「アーティスト」としての姿勢が特に気に入っている。彼こそ「リアル」なアーティストだと感じる。

「エミネムに影響されましたか?」Vince Staples「いや、全然…」インタビューから見るVinceのリアルさ

そんな彼の期待されていた2ndフルアルバム「Big Fish Theory」がリリースされた。このアルバムは「謎」に包まれていたと言っても過言ではない。近年のトレンドなのかもしれないが、全く前情報を出さないでリリースするアーティストが増えていると感じる。このアルバムに関しても、Vince StaplesとレーベルのDef Jamはクレジットを出さないと発言しており、あくまでも「作品」そのもので勝負をしようとしているのだ。(そもそもVinceは勝負をしようとしていないのかもしれないが)iTunesはこちら

そんな「謎めいた作品」をいつもと同じ、一回だけ聞いて率直な印象を語る「一聴レビュー」としてレビューをしたい。

 

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一聴レビュー

このアルバムを一回聞いた際に出てきた率直な感想としては「誰にも擦り寄らない」ということである。「周りの評価なんてどうでもいい。自分が表現したいことをやる」というアーティストとしての成長を見ることができる。近年流行りのサウンドを追いかけることや、ファンからどのように思われるかなどは、彼にとってどうでもいいのだ。「自分の”アート”の世界は、自分しか評価できない」というスタンスが伝わってくる。もちろんVinceが以前からそのようなスタンスであったが、今回は特にその想いが強くなっていると感じる。

個人的にはそのような「擦り寄らない」想いで作られた作品が好きなので、今回の作品も気に入った。1曲目「Crabs in a Bucket」はバウンシーであり、少しハウス/エレクトロなどの影響も感じることができる。しかし依然としてダークであり、Kilo Kishの声もこの雰囲気にとてもよく合っている。「Crabs in a Bucket(バケツのなかの蟹)」とは以前Smif-N-WessunのTek にインタビューをしたときにも出てきたキーワードである。「バケツに蟹を複数いれると、逃げ出そうとしている蟹の足を他の蟹が引っ張るから、どの蟹も逃げ出すことができない」という意味が込められたフレーズであるが、フッドの現状を表しているのかもしれない。一聴レビューということで、後で再度深く聞きたいと感じる。

 

MVも出ている「Big Fish」が最も一般的にウケそうな曲であろう。これを聞いたとき、少しカニエ・ウェストの「Fade」を思い出したのは私だけではないだろう。フッドのフィーリングとリリシズムがある「Fade」のような雰囲気である。80sハウスとウェストコーストの融合とでも言うべきか。「I was out late night balling(俺は夜遅くに大金もって浮かれ騒ぎをしていた)」のようなサビをJuicy Jがラップしており、「Big Fish」というものが何を指しているのかが少し伝わってくる歌詞となっている。

他にも私が気に入ったトラックが「Love Can Be…」と「Yeah Right」である。「Love Can Be…」もハウス/エレクトロの影響を感じることができるトラックであり、Kilo Kish、Damon Albarn、Ray Jのボーカルが素晴らしくブレンドしている。むしろこの曲に関してはVinceのラップがなくても充分良い曲である。

そして注目すべきなのは「Yeah Right」であろう。とてつもなく重いが、美しいワブルベースの音がスピーカーを揺らす。このアルバムはかなり前衛的なサウンドを使用しているにも関わらず、全体的にミックスがシュッとまとまっているので、このようなサウンドが苦手な人でも割りと心地よく聞ける作品となっていると感じる。SophieとFlumeといったダンスミュージックよりのサウンドを得意とするプロデューサーが手がけているのもあり、とても心地が良い「重さ」だと感じる。そしてこの曲にはなんとケンドリック・ラマーが参加しているのだ!この低音が踊り狂うトラックの上で、ケンドリックの軽やか、かつアグレッシブなラップが乗る…彼のヴァースは短いが、入った瞬間のインパクトは「DNA.」の後半部分を彷彿させる。

 

Big Fishとは?

一回聞き、「Big Fishって一体なんだろう」という疑問について考えてみた。Vinceは自分ではこのようなことを説明することはなく、リスナーが独自に色々感じ取ってほしいと言っている。私が感じ取った「Big Fish(大きな魚)」とは、ある意味「井の中の蛙」に近いものなのかもと感じた。

水槽に入っている魚は、どんなに大きくても水槽に入っていることには変わらない。

このようなフレーズが自分の頭のなかに浮かんだ。自分のコミュニティでどんなに稼ぎ、遊び倒しても、外の世界は広い。このような状況を表しているのかもしれない。上記で説明した「Crabs in a Bucket」の意味からも、その「狭い世界」から抜け出そうとしても、他の人たちからの影響で、なかなか外に飛び出せないことを表してる可能性もある。今までの彼の曲からも、「水槽」をフッドに置き換えているようにも聞こえてくる。

このアルバムは個人的には6月にリリースされた数多くのアルバムのなかで、最も気に入った作品かもしれない。まだ24歳の彼が、今後どのようにアーティストとして、さらなる表現をしていくのかがとても楽しみになるアルバムであった。「誰にも認められなくてもいい」という彼の表現に対する想いが伝わってくる作品であり、彼のアーティストとしての素晴らしい考え方が伝わってくる⬇

Vince Staples「メディアや世間のイメージがラッパーたちにプレッシャーを与えている」彼の超リアルトーク。

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