ハーバード大学の学生が卒業プロジェクトでラップアルバムを提出し卒業。レビュー+深いリリックの解説を試みる。

 

 

ヒップホップと教育

が絡む場面は近年多いと感じる。ヒップホップとラップというのは「言葉の芸術」でもあり、まさに私たちがシェイクスピアを研究するのと同じような感覚で、研究されるべきものだと感じる。9th Wonderがハーバード大学の研究員をやっているからか?それかNasがハーバード大学の研究員をやっているからか?近年特にハーバード大学ではヒップホップの研究が進んでいると感じる。

Nasがハーバード大学の教授に「It Ain’t Hard to Tell」のリリックの一部を解説する。解説されたリリックを紹介

そんななか、また「ヒップホップ×教育」が一歩前に進んだと感じる。この度20歳のObasi Shawは学位論文としてラップアルバムを作り上げ、提出したのだ。それが単に認められただけではなく、なんと優秀な成績のHonoursとして卒業することができたのだ。大学の長年の歴史のなかで、初の出来事となった。

彼はプロジェクトに「Liminal Minds(識閾の心)」と名付け、中期英語のポエトリーの要素を含め、現代の人種問題を歌ったのだ。ハーバード大学のインスタグラムによると、

「アフリカン・アメリカンは形は自由だが、今でも奴隷時代の影響がある」

「各曲は、奴隷と自由という対立、そしてその間にある探究したものだ」

と語られている。

この音源はSoundCloudにて聞くことができるのだが、第一印象としてはInfinite時代の、初期エミネムを彷彿とさせるライムスキームとなっていると感じた。音源としてのクオリティもそこまで高いわけではないが、内容、パッション、伝わってくる想いは素晴らしく心にくるものがある。リリックは公開されていないようなのだが、一聴して感じたことをレビューしていきたいと感じる。

1曲目の「Declaration of Independence(独立宣言)」ではタイトルからわかるように、人種としての「独立」、「フリーダム」を宣言しているような作品である。ここで気になるのは「人生で配られたカードから自分の道を選ぶことになるが、俺ら黒人たちはそのなかから2つ選ぶことはできない」というリリックだ。選択肢から選ぶことが許されなかった人種、自分たちの祖先の歴史、そしてその事実からの解放を歌っているのかもしれない。

2曲目のPilgrimsでは「自分たちの歴史が消されるってどんな気持ちだと思う?」というフレーズがとても印象的だ。「Pilgrim」はイギリスから自由をもとめて、アメリカ大陸に降り立った人たちのことである。彼らがアメリカに足を踏み入れ、アメリカにヨーロッパ人が住み着くきっかけになったのだ。また、イスラームの世界の「巡礼者」という意味もあるが、この曲の場合は巡礼者という意味を含めつつも、アメリカの歴史からのレファレンスを多く使用していると感じる。この曲の後半のリリシズムが素晴らしいので紹介したい(歌詞が公開されていなく、耳コピなので誤っている箇所もあるかもです)。

I’m not a prophet, nor do I profit from the wordplay.
I’m simply telling tales of pilgrims fasting until the 3rd day
While passing over Thursday.
Aint no muse to invoke
just the music of my kinfolk
the pivotal rhymes, what if the liminal minds were given the space to speak?
When will they say we’re free?
I guess we still gotta walk, million mile march to freedom
time to let the pilgrims talk.
私はプロフェット(預言者)ではない。この言葉遊びからプロフィット(利益)を得ているわけでもない
私は単純にピルグリムが3日目まで断食をし、木曜日を通り過ぎたストーリーを語っているだけだ。
呼び寄せることができる芸術の神/インスピレーションもない
自分たちの祖先がつくった音楽だけだ。
重要なライムたち、もしこの狭間にいる「心」が喋る空間を与えられていたら?
いつ彼らは自由だと言ってくれるのだろうか?
どうやらまだ歩き続ける必要があるらしい。自由への長旅のマーチへ。
ピルグリム(巡礼者)の言葉を聞くときがきた。

まさに中期英語を意識したポエトリーとなっている。難しく、深く考察をせざるを得ない内容なので、日本語にするとさらに難解になるが、歴史、宗教、さらに人種としての「自由」について書いてあることがわかる。「3日目まで断食」と「木曜日」とは「米国に降り立ったピルグリムたち」のサンクスギビングでの出来事を表しているのだろうか?それかイスラームのハッジにて「巡礼するピルグリム」を表しているのだろうか?まだまだ宗教についての勉強が必要だと感じさせられる。

「狭間」というのは「奴隷であること」と「自由」の狭間という意味だろうか?祖先たちが作ってきた「アート」に公に発信することができる権利が与えられていたら、どのような効果をもたらしていたのだろうか?かなり考えさせられるポエトリーとなっている。Geniusのページがないので、解析班に参加して色々解明できないのが悔やまれる。もしかしたら解釈を間違えている可能性があるが、このようにしてアーティストが描いた世界について、考える時間をとること自体が良いことだと感じる。もしこの辺に詳しい方がいたら是非ご教示願いたい

Obasiはこのアルバムで、黒人の日常/感情を「アメリカの成長」になぞって語っていると感じる。「独立宣言」から「Pilgrim」、さらにアルバムの後半では学校での出来事などの「現代の人種問題」がカバーされている。「過去の歴史」と「現代のリアルな感情」という意味でも「Liminal」「狭間」なのだろう。曲名にもなっている「Swing Low」というフレーズは、奴隷賛美歌に出てくるのだが、もしそこまで意識しているとしたら「詩人」としての才能に脱帽するばかりだ。

彼はシアトルにある企業でエンジニアになるらしいが、是非今後もポエトリーを公開しつづけてほしいと感じる。ラップのデリバリーとしてはまだ改善の余地があるが、深く考えさせられる素晴らしい作品となっている。

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