カムアップするラッパーにとっての「地下室スタジオ」の役割。音楽にコミットできる環境づくり
アーティストがカムアップするにおいて
最も大切なのはなんだろうか?私が最近感じているのは「コミット力」である。今まで数々のアーティストの成功ストーリーを記事にしてきたが、やはり共通しているのが「音楽を作ることへの驚異的な想い」である。音楽にコミットできる環境をつくれるかどうかが、肝となっているようにも感じる。下記の記事が良い例だろう。
様々なアーティストのカムアップについて調べた結果、「音楽にコミットできる環境」の事例として、「地下室スタジオ」の存在感に気がついた。厳密に言うと地下室でなくてもいいのだが、音楽制作を中心としたライススタイルを実現する場所である。特にラッパーだとバンドと違い、最悪マイク/PC/AIがあればレコーディングを出来てしまうというのもあり、他のジャンルより業界に参入するハードルが低いと感じる。そんなライフスタイルのおかげで、カムアップしたラッパーの事例を紹介したいと思う。
「俺の家に無料で住んでいいよ」
アルバム「Everybody」がビルボード1位を獲得し、トップアーティストの仲間入りしたと思ったら次のアルバムで引退宣言をしたLOGIC(ロジック)。彼のカムアップ話はかなり興味深いし、共感する人も多いのではないだろうか?と感じる。彼は上記の動画にてこのように語る。
住む場所がなかったからLenny(後のBig Lenbo)がここに住ませてくれたんだ。本当は就職するはずだったんだけど、音楽をやりたかったから、(恐らく親に)「1年間音楽にコミットさせてくれ、もしそれでどうにかならなかったら就職する」と言ったんだ。そしてその期間の最後のほうにDef Jamと契約したんだ。その日にLennyは仕事を辞めて、俺と一緒にLAに引っ越したんだ。
そう、LOGICはキャリアをスタートしたばかりのとき、後に楽曲「Young Jesus」でもBig Pun並のラップを披露するBig Lenboの家に住んでいたのだ。彼のスタジオ(単に機材が置いてある部屋)に寝泊まりしていたLOGICは、Big Lenboにご飯まで食べさせてもらっていたらしい。「お前は才能があるから、生活費を気にせずここで音楽をやれ」と言ってくれるBig Lenboと、寝泊まりして音楽にコミットできるこの場所がなかったら、LOGICはここまでの存在になっていなかっただろう。
「ダンジョン」から出てきたと言ったら
OutKastとダンジョン・ファミリーであろう。彼らこそ、この「地下室スタジオ」の法則に則っているアーティストだ。ダンジョンファミリーRicoの母親の地下室にて作られたスタジオにメンバーたちが集まり、毎日音楽を作っていたのだ。そこでできた名作が後のOutKastのデビューアルバム「Southernplayalisticadillacmuzik」となる。まだ若く、ハングリーであったAndreとBig Boiはこの地下室で寝泊まりをし、毎日のように練習/レコーディングをし、今まで業界にいたMCたちとは違うレベルのアーティストとなったのだ。詳しくは下記の記事読んで頂きたい。
インターネット時代のカムアップ
と言ったら先程記事を記載したRussであろう。Playatunerでは彼のカムアップぷりを頻繁に取り上げているので、知っている方も多いと思うが、彼はまさに「コミット力」の結晶である。彼は誰もまだ彼の音楽を聞いていない状況でも、11枚のミックステープを独自でリリースし、再生回数が伸びなくてもやり続けた男だ。彼の地下室スタジオエピソードはこちらにて語られている。
彼はColm Dillaneというアーティストによって作られた、NYにあるKIDSUPERというブランドの地下室にあるスタジオに寝泊まりをしていたのである。なんと地下にある自販機が隠し扉となっており、自販機を横にずらすと小さなスタジオへ通じるのだ。彼は日も当たらないこちらのソファにて寝泊まりをし、毎日曲を作っていたのである。その結果、彼は毎週楽曲をサウンドクラウドにて公開することができ、今では自主レーベルでプラチナ認定されるまでに上り詰めた。
地下の小さな部屋
インターネット時代に自主レーベルを立ち上げ、成功した1人として印象深いのがHopsin(ホプシン)である。彼は自室で曲や映像を制作し、今では多大なファンベースを抱えているアーティストである。彼が実際に地下室にあるスタジオにて活動をしている映像があるのだが、是非こちらを見ていただきたい。
Hopsinは毎日のように1人で(後ろに女性がいるが)音楽制作をし、ネットで公開しているのである。もちろん有名になった今ではツアーを頻繁に行っているが、カムアップをするアーティストにとって大切なのは「孤独」に耐え、ひたすら作り続けることだ。
90sクラシックとして名高い「Dah Shinin’」でも知られるSmif-n-Wessunにインタビューをしたときも、Tekがとても興味深いことを言っていた。カムアップをしようとして毎日努力をすることを「グラインド」というのだが、彼はグラインドについてこのように語っている。
契約をゲットして金を使えるようになった瞬間に「成功」したと思う人は結構多いと思うんだけど、実際の血と涙と汗はそこからはじまるんだ。1曲で契約をゲットしても、その後2、3、4曲立て続けにそれ以上のクオリティのものを出し続けないといけない。
契約をゲットした後も、契約をゲットする前も、実質アーティストがしないといけないことは変わらないのだと感じた瞬間であった。それは「とりあえず良い物を作り続ける」ことである。そしてそのためには「どうしたら良い物を作り続ける環境を作れるか?」ということも考えないといけない。
日本とアメリカだと、新卒などにおける就職制度が全く違うので、日本だとさらに「音楽にコミットできる環境づくり」が難しいと感じる。日本は学校を卒業して、自分のやりたいことを数年間ひたすらやってみる、ということに対しての許容力が低い社会だと感じる。そのため、場所に限らず、「環境づくり」ができずにズルズルと時間が経ってしまう人は多いと感じる。私や周りのアーティストもその1人なのかもしれない。
このように音楽にコミットをする「環境」をいかにつくれるか?この課題については色々考え続けたい。
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