ケンドリック・ラマーがTDEのメンバーとの関係について語る。一緒にのし上がった「ファミリー」
ケンドリック・ラマー
とBigBoyのインタビューについては今まで2回にわけて書いてきた。ベテランラジオパーソナリティーのBigBoyのインタビューが面白すぎて、彼とケンドリックの記事数が多くなってしまったが、今回が第3弾であり、最後となる。第1弾では「自身のアルバムをランク付け!」、第2弾では「前に進み続けるモチベーション」を紹介した。
第3弾では、彼の所属レーベル「Top Dawg Entertainment」との関係について紹介したい。以前から通称TDEの体制や素晴らしさについてはPlayatunerでは書いてきたが、このレーベルは何故成功できたのだろうか?何故ここまで「ファミリー感」があるのだろうか?彼のインタビューから紐解こう。
BigBoy:(ふざけながらジョークとして)聞きたかったんだけど、ScHoolboy Qとケンドリックのビーフの状態はどうなったの?
ケンドリック:(爆笑)どこからそんなビーフの話が出てくるんだよ!
BigBoy:どこから出てくるって?んじゃあなたも俺と同じぐらい混乱してるってことだな!でもこうやって、勝手にストーリーを作り上げるメディアっているでしょ?朝起きてSNSとか見て「俺こんなこと言ってないぞ?」ってなることある?
ケンドリック:そうだね。そういう経験はかなりあるよ。でもリアルな話、そういうクルー内で仲違いしている人たちを見ると、「この人たちはクルーのメンバーと一緒にカムアップしたわけじゃないんだろうな」って思ってしまうんだ。
俺とQは同じカウチソファで寝てたし、2人で$5のチキンもシェアして生活していた。アブ・ソウルとかともそうだ。だから俺たちはお互いを本当に深いところまで知っている。
メディアが勝手にストーリーを作ったり、「俺そんなこと言ってないぞ」ということもあると語った。BigBoyが適当にジョークで「Qとのビーフ」の存在をでっち上げただけで、ここまで深い「ファミリー」であることのエピソードを聞くことができた。そのような噂があったとしても、彼らの絆は簡単に切れるものではないのだ。さらに「成功しないかもしれない…」と思ったことがあるか?という質問の答えも面白かった。
BigBoy:今までに、「あぁ俺らもう駄目だ」ってほどではないけど「大成功できないかもしれない」と感じたことはある?
ケンドリック:いつもそういう会話してたよ。俺らがソファでこんな会話していたのを思い出す。当時Curren$yのような好きなラッパーを見ていて、「俺らはCurren$yレベルになって、Key Club(ウェスト・ハリウッドにあるクラブ)でライブできるようになりたいな」って会話していたんだ。
BigBoy:「もう駄目だ…普通の仕事をしよう」って考えたことはある?
ケンドリック:そういうメンタルになることはあったよ。機会が近くまでくるんだけど、思うようにいかないんだ。例えばJay Rockとワーナー・ブラザースの件もそうだった。そういう手が届きそうで上手くいかない案件があると、「俺らは何をやってんだ?」って疑問を持つようになってしまうんだ。
BigBoy:そういうメンタリティになったメンバーを引っ張り戻したこととかあった?
ケンドリック:Qとはそういうことはあったね。彼は音楽をやりつつも、人生の方向に悩んでたりもしていた。音楽の前にやってたこと(ギャングとディーラー)に戻ろうとしている時もあった。だから俺たちは彼に「スタジオが無料で使えるなんて、こんな機会はないぞ。TOPがスタジオを使わせてくれる。この機会を活かそう」って彼を音楽の世界に引き戻そうとしていた。
なんとケンドリックやQでも「もう駄目だ…」と感じたことがあったらしい。実際には何か志がある人には、この感覚はつきものである。しかしそのように強く撃たれても、撃たれた分だけ前に進むのが重要なのかもしれない。特にQは人生に悩んでいたようだ。このように人生レベルで、一緒に前に進んだからこそ「ファミリー」なのだろう。さらにケンドリックはTDEの代表「Top Dawg」についてこう語る。
BigBoy:なんでそんなにTop Dawgのことを信頼していたの?結構レーベルというと、元々アーティストがいてカタログが既に出来上がってないと、なかなか信頼されないと思うんだけど。
ケンドリック:やっぱそこは彼が俺らに与えてくれた「愛」かな。俺らは彼の冷蔵庫のおかげで生きていたようなもんだ。彼には自分の家族もいるのに、俺たちは彼の冷蔵庫から飯を食ってたんだ。子供心に、そうやって俺らのような子供たちに場所も食べ物も提供してくれるような人はやはり信頼できると感じたんだ。
後はストリートでは彼の名前は知られてたんだ。音楽よりもっと危ない分野で既に成功している人だった。そのような危ないことで成功できる人は、音楽業界でも成功できると感じた。
Bigboy:もしこの質問がディスリスペクトな感じがしたら、答えなくてもいいんだけど… Top Dawgは何着TDEのパーカーと帽子を持ってると思う?
ケンドリック:…あれは全部ワンピースのように繋がってるから一つなんだよ(笑)
一同:(爆笑)
最後は謎のおちゃらけで締まったが、皆が何故Top Dawgを信頼していたかを語った。レーベルというものは難しいビジネスであるが、過去の成功事例がない場合はさらに難しい。既に所属アーティストがいる場合は、そのアーティストで判断できるが、TDEに関してはまだこれからカムアップしていくレーベルであった。そんななかTop Dawgの振る舞いと、アーティストたちに対する想いが信頼の証しとなったのだ。さらにBigBoyの話によると、Top Dawgはどんなに暑いときでも、TDEのパーカーを着てファミリーをレペゼンしているらしい。彼のTDEへの愛が伝わってくる。Top Dawgの話はこちらが面白いので、オススメである。
このようにケンドリックとQのTDEとの関係性を見ていると、「ファミリー」ということがわかってくる。私は先日「水面下で帝国を作るアーティスト。1人で活動する強さ」という記事を書いたが、1人で活動することにメリットもあれば、デメリットももちろんある。心から信頼できるクルーやファミリーのようなレーベルの存在は、メンタル面でも活動に有利になってくる。もちろん心から信頼できる人を世の中に見つけるのは難しいだろう。スキル、人格、経験、熱意などの要素を持って信頼できる人を見つけるのは難しいが、それもやはり「地道な努力」の上で自然と出会うものなのかもしれないと感じる。
もちろん一人ひとりに合っている活動スタイルは違うので、自分の心の赴くままに活動することが重要なのかもしれない。心を寄せ合い0から一緒に高みを目指していくのか、1人でやっていたらいつの間にか仲間ができているのか?「独り」でスタートはできるが、「1人」では活動の限界がある、という意味ではたどり着くところは同じなのかもしれない。
ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。
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