Staff Blog:Linkin Parkがアメリカの中学生たちに及ぼした影響。チェスターから私たちが改めて学んだこと【RIP】
2000年代のロックシンガー
で最もアイコニックであった人が亡くなった。2017年7月20日にロックバンドLinkin Park(リンキン・パーク)のボーカリストChester Bennington(チェスター・ベニングトン)が自宅で自殺した。ラップ・ロックバンドとしてヒップホップ界隈にも愛されていたバンドであったため、様々なヒップホップアーティストたちも追悼コメント寄せていた。リンキン・パーク関連といえばPlayatunerではラッパー、マイク・シノダのソロプロジェクト「Fort Minor」について書いている。
Playatunerは一応ヒップホップメディアということもあり、今回の記事を書くか迷った。しかし私もリアルタイムのファンであり、ヒップホップファンに及ぼした影響も大きかったため、書かせて頂く。この記事は私の個人的な経験や想いから成り立っているので、他の「周知の事実を考察する記事」とは少しテイストが違う「Staff Blog」となっているが、是非読んで頂きたい。
あまりLinkin Parkを聞いたことがないヒップホップファンのために少し彼らについて説明しておくと、彼らが2000年にリリースしたデビュー・アルバム「Hybrid Theory」はいわゆるラップロック、ラップメタル、ニューネタルを昇華したものであった。政治的メッセージが強いRage Against the Machineや、超オラついたLimp Bizkitととはまた違うテイストであり、彼らの音楽は多感な若者が内心で感じている「認められない憤り」を全面的に表現したものであったと感じる。小中学生当時に聞いていた私的には、「Emo」に近い感覚でもあったのかもしれない。
1stアルバム「Hybrid Theory」は全世界で3000万枚、2ndアルバム「Meteora」は2700万枚という驚異的なセールスを見せており、その後のアルバムもプラチナ認定、ゴールド認定を連発している。Hybrid Theoryは恐らく世界で最も売れたラップ×ロックアルバムであろう。
Jay Z × Linkin Park
そんなLinkin Parkがヒップホップファンにとって特別なロックバンドとなったのは、Jay Z × Linkin Parkのコラボプロジェクト「Collision Course」であろう。双方の楽曲をマッシュアップした6曲を含んだコラボEPであった。EPには特典DVDが付録されており、製作やライブ映像などが収録されていた。
1stシングルの「Numb/Encore」は頻繁にラジオでプレイされていたのを思い出す。個人的に好きだったのは上記の「Points of Authority/99 Problems/One Step Closer」のマッシュアップであり、映像の最後のチェスターのスクリームを見たJay Zの顔が面白くて何度も見た。「すげぇな」という表情をしたJay Z、忘れられないシーンだ。
アメリカの中学生の反応
ここからはかなり個人的な話になってしまうが、これがリリースされた2004年当時、私は中学生であった。当時カリフォルニア州オレンジ・カウンティという場所に住んでおり、現地の学校に通っていた。LAの少し下にあるという立地的にも、ここは非常に多様性のある場所であり、学校には様々な人種/趣味/趣向の人がいたのだ。そのため、学生たちは聞く音楽や趣味が合う人たちとつるむのである。そのような同じ趣味の人たちでグループを作るので、同じような音楽の趣味を持った人たちが集まるのも自然な流れであった。メタル好きはメタル好きで仲良くなり、ヒップホップ好きはヒップホップ好きで仲良くなる。バンドのTシャツやヒップホップ系のブランドを着る学生が多かったのも、仲間を集めるためや、アピールするためだったのだろう。私もよくG-Unitのシャツを着ていた。
そのため、もちろん幅広く音楽を聞く人もいるが、一つのジャンルしか聞かないという人たちも多かったのだ。他のジャンルの「本質」や素晴らしさを見ることがなく大人になってしまう人も多い。そこでこのLinkin ParkとJay Zのコラボが一役買ったのを覚えている。
いつの時代にも素晴らしいロック×ヒップホップのコラボはあった。そもそもヒップホップこそがある意味ロックだと思う節もあるが、ヒップホップは人々の「声なき声」を代弁したものであると感じる。そのようなヒップホップは常にサウンド的にも「ロック」からも影響を受けてきたのだ。Run DMCとエアロスミス、Public EnemyとAnthrax、このようにお互いの「本質的」な良さを確認し、団結する。美しい瞬間であると感じる。
私たちの世代のその「団結」を促したコラボがまさにこの「Collision Course」であった。今でも覚えているのは、全然ヒップホップを聞かない隣の席の白人が「Encore」のサビを延々と歌っていた光景だ。「Can I get an encore, do you want more?」と歌っており、「Jay Z聞くんだ?」と尋ねたのを覚えている。「Numb/Encore」を聞いてたら、原曲を聞きたくなったという人たちが大勢いたのだ。それはLinkin Park→Jay Zだけではなく、Jay Z→Linkin Parkも同じことであった。元々Linkin Parkを聞いている人はラップミュージックへの適性が高いというのもあるが、なんとなく分けられていたグループ間に親近感が生まれた瞬間であったと感じる。明確に「団結した!」と言えるかどうかはわからないが、授業でしか一緒にならない人たちとの距離が少し縮まったようにも思えた。私が通っていた中学校は、全授業が移動授業であったため、仲良い人たち以外は「なんとなく趣味を知ってる知り合い」程度であり、そのような人たちとの距離が縮まったのは非常に良いことであったと感じる。ちなみに私はそこからSlipKnotのシャツを着ている人が気になり、BETなどのヒップホップ番組だけではなく、MTVの音楽番組全般を見るようになった。
何かを一括りにするのは好きじゃないが、ヒップホップがもし「黒人のストラグル」から始まったものであったとしたら、Linkin Parkなどは「多感な若者のストラグル」を表したものであった。中学生特有の上手くいかないモヤモヤ、周りに認められない孤独感、まさに「等身大のストラグル」であった。ゲットー出身じゃなくても、辛い思いをしている若者たちはたくさん存在しており、チェスターとマイク・シノダの声と歌詞は、その人たちの心の支えとなっていたのだろう。若者がケンドリックに感じていることを、彼らは代弁してくれていたのかもしれない。
学んだこと
アーティストの鬱症状についてはPlayatunerでは何度も取り上げている。そのような記事と内容が被るかもしれないが、アーティストも人間である。Linkin Parkは何度もスタイルを変え、「進化」してきた。しかし世間はやはり1stや2ndを欲しがるのだ。新作を出す度に評価されず、「こんなんLinkinじゃない」と責められてきた。チェスターは実際にインタビューでも「1stばかり欲しがっているやつらは、前に進めよ」と語っており、メタルフェスに出演した際にはステージに物も投げられている。動画のコメントには「こんなポップな曲をやってるからだ!」という「セルアウトしたアーティストには酷い扱いをしてもいい」という旨の発言も多くある。あまりにも酷い。実際に彼が何を考え、亡くなったのかはわからない。しかし相当な痛みを感じていたのだろう。
かくゆう私も「やっぱLinkinは1stと2ndが一番いいな〜」と思っている人なので、自分を棚に上げるつもりはない。しかしカニエ・ウェストの件でも感じたが、世間の反応は冷たいものだ。何故ここまで過激な行動を起こすのだろうか?亡くなってからこのような記事を書いている自分に悔しさを感じる。アーティストの自殺が目立つなか、彼の死を「RIP」で済ましてはいけない気がした。
「ヒップホップと鬱症状」という記事でも書いたが、アーティストも人間である。むしろ人が隠そうとする「弱み」と向き合い、表現する人たちも多い。だからこそアーティストは美しいのだろう。「彼らの表現が嫌い」という意見はわかるが、それは様々な揚げ足取りをして「人間」としてディスリスペクトしていい理由にはならない。特にソーシャル時代には、アーティストに酷い言葉を投げかけるのが当たり前になってしまっているようにも感じる。「それが人前に出るということだろ!嫌だったら辞めちまえ!」という意見の人もいるだろう。しかしそんな「強い」人は世界中に何人いるのだろうか?自分の弱みと向き合わない人は本当に強いのだろうか?人が亡くなったのも有名税で済まされてしまうものなのだろうか?マック・ミラーがドラッグの世界に入ってしまったのも、そのような「人間」としての攻撃が多かったからだ。
今回はLinkin Parkのチェスターという遠い存在であったが、家族や友達や近い人が自殺した経験がある人は、その兆候を見つける難しさを知っているだろう。私は専門家ではないので、正解はわからない。しかしそのような兆候を見つけたら、見捨てずに何か行動をしてほしいと個人的には感じる。チェスターもバンドメンバーがいながら、その状態に気がついた人はいなかったのだ。彼の親友のクリス・コーネルが自殺したのも、大きかったのかもしれない。
1stアルバムの「One Step Closer」のサビ、「あなたが言う全てのことが…一歩私を端へと追いやる。今にも壊れそうだ」というリリックも昔は単なる表現だと思っていたが、もしかしたら昔からそのような問題を抱えていたのかもしれない。最新アルバムもそのような内容が多い。正解はわからない。しかし言えることは、「アーティストも人間である」ということ、そしてその兆候を見つけることの難しさである。
正直後半は、言葉がまとまらないまま、思ったことを書き殴ってしまった。今回はいつもの記事に比べ、非常に個人的な意見や経験が多いので、スタッフブログとして書いた。私は以前ラップロックバンドのボーカルをやっていたのもあり、彼の「内面を見るリリック」の影響は自分にとって大きかった。Rest in Peace Chester Bennington
Thumbnail Credit: Miami Vice Wiki
ライター紹介:Kaz Skellington カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。
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