「ネット時代の音楽活動は食事で例えることができる」Big Boiが考える活動スタイル

 

現代の音楽活動

において最も重要なのはテクノロジーをどのように利用するか?という観点かもしれない。音楽と技術というと、デメリットや「音楽業界の衰退」という点が多く注目されるなか、Playatunerは今まで技術を上手く使用して成功したアーティストについての記事も多く書いてきた。配信やストリーミングにたいして「諸刃の剣」と答えたプリンスはあまりテクノロジーのファンではなかったが、Russやblackbearの例を見ていると「個」として成功する可能性が広がったようにも思える。

水面下で帝国を築き上げるアーティストたち。「自分で全部やる」というパワーと美学

 

技術は目まぐるしく変化するため、対応に慣れていない業界やベテランアーティストたちが空回りすることもあるだろう。過去に感謝するのは当たり前に必要なことであるが、過去を100%美化することによって未来への対応力を失うのよくないことである。しかしベテランはベテランなりの活動の仕方もあり、自分にとってどのような活動スタイルが「正解」かを見極めるのが何よりも重要なのである。

そんななか、現代の音楽活動について面白い例えをしているベテランラッパーがOutKastのBig Boiである。彼とAndre 3000は1991年にOutKastを結成し、1994年にデビューアルバム「Southernplayalisticadillacmuzik」をLa Faceからリリースしている。OutKastとしてリリースした全アルバムがプラチナム認定(以上)されており、サウスがヒップホップ界で活躍する場を作ってきたグループでもあった。

 

彼らがOutKastとして活動しはじめたときは、彼らは16歳〜17歳の少年であり、彼らが「若く新しい勢力」であった。そんなBig Boiは現代の音楽とテクノロジーをどのように見ているのだろうか?Digital Trendsにて彼はこのように語る。

 

Big Boi:人々が音楽をどのように聞くかへ、ビルボードチャートなども段々対応してきている。アーティストの観点で言うと、アルバムに3年費やしたとしても、現代ではリリースした瞬間にそれが「無料」になるんだ。誰でもアップロードできちゃうからね。だから俺はもう「今の音楽は無料」ってモットーを持つようにしているんだ。でもコンサートチケットやグッズが自分の「ブランド力」を作る場所となっているんだ。

最初にNapsterが出てきたときも、「OutKastで3年かけたアルバムが無料で公開されてる…」って思ったよ。映画でも同じことが言えるんだけど、今ではAmazonのFirestickとかがあって、どこでも高画質で映画を見ることができる。だから「映画館で見る」という体験や、デートにいくという体験をつくることが重要になってくるんだ。それは音楽でも同じだ。「Big Boiの世界観」というのはインターネットだけでは完全に体験することができない。

 

ここまでは単に新しい流れに対応したベテランアーティスト、という感じがある。インターネットの自然の摂理を愚痴っているだけでは生き残れないと肌で感じ、自分のブランドを持ち続ける方法をお試行錯誤した結果だ。しかし彼のメンタリティはここでは止まらない。彼は単に時代に合わせるだけではないのだ。

 

Big Boi:OutKastはオーガニックに作られたグループだ。だからもしOutKastが今の時代に出てきたら?ということは考えられない。現代ではストリーミングのおかげもあり、レーベルがなくてもダイレクトでファンに届けることができる。暇なときに趣味で音楽をつくって、いつでも公開することができる。OutKastの例みたいに、TLCやToni Braxtonのアルバムがリリースされるのも待たないといけない、ということもないんだ。

今夜レコーディングをして、直後にサウンドクラウドにアップできる。電子レンジ調理のように音楽を作ることができるんだ。でも俺の活動スタイルはそうではなくて、サンクスギビングの晩餐のように音楽を作りたい。オーブンに入れて、バターを塗って、ガーリックも調味料として使いたい。

 

当たり前であるが、もちろん音楽にバターとガーリックを塗るということはない。彼は音楽業界とインターネットの自然の摂理を理解し、流れに乗りつつも、「自分に合ったスタイル」というのを理解しているのだ。以前書いた「音楽の寿命は短くなった?」という内容にも通じることであるが、現代では超スピードで音楽をリリースすることもでき、むしろストリーミングというプラットフォームを考えると、頻繁にリリースすることがある意味一つの「正解」とされている。

しかし彼は上記の「ブランドをつくる」という意味でも、時間をかけて試行錯誤作った音楽が「Big Boiファン」にとってのブランドとなることを理解しているのだ。また、時代の潮流を理解しながらも、自分に合ったスタイルを慎重に選択できる経験を積んでいるのだろう。また、Big Boiは製作中のソロ曲をAndre 3000に聞かせて感想をもらっているらしく、例えとして出てきた調味料はAndreやダンジョン・ファミリーのテイストという意味もあるかもしれない。

このBig Boiから学べることは、時代に合わせるのは重要だが、自分の活動スタイル/作品の軸は見極ないといけないということだろう。彼の最新アルバム「Boomiverse」はあまり枚数的には成功と言えなかったのかも知れないが、それでも彼は今でも数々のフェスに「昔の人」としてだけではなく、「新しい作品をリリースした現役」としてブッキングされているのだ。

年を取ったらラップができない!?Andre 3000の発言に反論しつつ、この発言について考える。

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