「Cardi Bは2Pacだ」新旧2人のアーティストを比べた現代の最重要レーベルTDEの社長の意図を解説/考察
アーティストのレガシー
はどのようにして受け継がれていくのだろうか?音源であったり、文章であったり、映像であったり、様々な形で後世に受け継がれていく。そのなかで、実は最も次の世代へのきっかけになりやすいのが「影響」として受け継がれていくことなのではないだろうか?Roy AyesやWyclef Jeanが以前言っていたように音楽はサイクルになっており、Nasがブルースバンドのカバーをやったことからも、アーティストたちのレガシーは「共通項」という形で現代にて生き残っていることがわかる。
そのため、現代のアーティストを聞いて「あ、これ昔の◯◯を思い浮かべるな」と感じることも多々あるであろう。その純粋な印象をツイートして、話題になったのがケンドリック・ラマー、SZA、ScHoolboy Q、Ab-Soul、Jay-Rockなどが所属するTOP DAWG ENTERTAINMENTの社長の一人、テレンス・ヘンダーソン通称「PUNCH」である。彼の功績については以前Playatunerでも取り上げているので、是非こちらをチェックしてみてほしい。
そんな彼のツイートはこちら。
Cardi B is 2pac.
— Punch TDE (@iamstillpunch) 2018年4月7日
Cardi Bは2Pacだ
とだけツイートしており、2Pacの神格化によって2Pacを誰かと比べるのは「侮辱」と捉えている人も多い。そのため、プチ炎上しているが、Punchがこの度DJBoothにてゲスト寄稿をし、この発言の裏側を語った。彼は「2Pacは多くの人の心を深いレベルで影響したから、多くの人は2Pacのレガシーが完璧に保つことに責任を感じている。だから2Pacを他のラッパーと比べるのは侮辱とされている。」と語っている。
既に日本のメディアでも取り上げられているが、要点をまとめ、より踏み込んだ解説/考察/翻訳を書きたいと思う。
① 歩く矛盾と熱意
Punchはこのように語る。
➖私たち全員がそうなように、2Pacは歩く矛盾だった。彼は全ての分布の感情を熱意と共に曲に込めた。それは彼以前のラップ・ミュージックにはなかったものだ。瞬きをする間に彼は「I Get Around」から「Keep Ya Head Up」をリリースし、「生」の素直さを使って矛盾した感情を縫い合わせていたんだ。あなたは彼の口から出る全ては信じていた。彼が語っていたことが寓話だったとしても。
彼は2Pacが「歩く矛盾」だと語った。これはディスっているのではなく、以前私がG-Eazyの記事でも書いたように、人類はその矛盾した複数の感情を抱えているのだ。しかし2Pacはその感情にたいして、矛盾を恐れずに非常に素直であった。例ととしてPunchは「Dear Mama」のエピソードを語っている。
➖Dear Mamaでは「あの臆病者は俺らのためにいてくれなかったから、父親からの愛はなかった。彼は死んだけど、俺の怒りが”他人”への想いを持たせてくれなかったから、泣かなかった」と2Pacはラップしている。PacがDear Mamaをリリースしたときには、彼の実父はまだ生きていた。むしろ2Pacが亡くなったときに、彼の病室にいた。
でもその正しくない情報が、あの曲の良さを取り除いたりはしない。あの曲を聞く度に(It gives me chills)ゾクゾクっとするし、鳥肌が立つ。あの曲は彼の母親Afeniについてだけではなく、彼が人生で出会った強い女性たちについての曲だった
実際に2Pacは子供の頃は父親が死んだと思っていたらしいが、一つの正しくない情報があったとしても、それは本質ではないのだ。彼の本質的な熱意は、それを凌駕する。
(余談)「It gives me chills」の「チル」は中途半端に日本に意味が伝わってしまっているが、今回は「リラックスする」という意味ではなく「ゾクゾクと鳥肌が立つ」という内容にパッケージされている意味となっている。元々「Chill」というのは少し肌寒いという意味もあり、日本で使用される「チル」という意味だけではなく「悪寒でブルっとくる」「鳥肌が立つ」という意味で使われる。「肌寒いと鳥肌が出る」の鳥肌をキーワードとして、良い意味で鳥肌が出るときも「It gives me chills」と言えます。
② リリックの内容
リリックの内容という点に関しては、実際には似ているというよりは、「批判される」という観点で語っている。彼は「もし2Pacのリリックが現代にて世に出たら、ボコボコに批判される」と語っており、実際にCardi Bのリリックも「Politically Incorrect」だと語る。「Politically Correct」は直訳すると「政治的に正しい」であるが、実際には「政治」よりも「道徳的に、全ての人種/性別/価値観に配慮した発言かどうか?」という観点が「ポリティカルにコレクトな発言」とされており、特に近年のアメリカは非常に敏感だ。Cardi Bは度々「ポリティカルにコレクトではない」とされている発言をしており、そこも2Pacの「素直な矛盾」と共に連想ポイントとなっている。しかし2PacとCardi Bは③によってカリスマ性を発揮している。
③ 素直さ、熱意、デリバリー
これも①と多少被るが、2Pacの素晴らしさは実際に「MC」としての評価基準から見ると、他のMCたちと少し評価ポイントが違う。MCの評価基準の定番と言えば「リリシズム、メッセージ、フロー、デリバリー」であろう。2Pacはメッセージとデリバリーが特出しており、実際には言葉遊びに長けているわけではない。Talib Kweli、Mos Def、Pharoahe Monchのようにリリシズムや言葉遊びに長けているMCもいるなかで、2Pacはどちらかと言うと、熱意を込めたメッセージと「言葉の言い方」となるデリバリーによって多くの人の心に残っている。
熱意については既に書いたので、デリバリーの共通点について書きたい。彼のフローとデリバリーを分析してみると、「細かく言葉を入れた後に、韻を踏むパンチラインとなる言葉を伸ばす」というパターンが多い。「All Eyez On Me」では細かく言葉を入れている箇所がシャッフルビートになっている場合も多く、言葉の発音の仕方が非常に印象的だ。実際にCardi Bのデリバリーも強調する言葉を伸ばしたりする。
ラップの「スキル」としては、凄ぶる高いわけではないが、口に出す「言葉」に本気の熱意を込めているため、人々の心に刺さるという意味では共通点であろう。どちらも「応援」したくなるのだ。Cardi Bに関しては、先日リリースされた彼女のデビュー・アルバム「Invasion of Privacy」のオープニングトラックを聞けば、その「熱意」に2Pacの影響を見ることが出来るだろう。
見ろ。世の中はこのビッチに2つの選択肢を与えた:ストリップか敗北か?
私は学校の向かい側にあるクラブでダンスをしていた
「ファック」ではなくて、「ダンス」って言ったんだ。混乱するな
世は勝手に色々思い込みをするから、一旦誤解を解く必要があった。
私は自分の心を語りはじめて、再生回数を三倍に増やした
リアルなビッチだ。フェイクなものはこの豊胸だけ。
このように非常に「リアル」で、自分の過去を恥ずかしげなく語り誇るリリックに深くまで影響される人も多いだろう。「そのままの自分で良いんだ」とポジティブな心境になれるのも、Cardi Bが人気の理由なのだろう。あまり持たざる者たちの勇気となり、さらに「All Eyez On Me」の名前の由来の通り、音楽ファン以外のゴシップファンや世間も常に注目している。それだけでも充分に共通点があるようにも思える。
③つのポイントにまとめたが、私なりの結論を書くとしたら、意識的か無意識かはわからないが、Cardi Bは2Pacのレガシーを受け継いでいる。そのような意味で、ケンドリック・ラマーも2Pacであり、J. Coleも2Pacであり、Joey Bada$$も2Pacである。冒頭で書いたように、2Pacのレガシーと想いは時代を越えて受け継がれている。そのような意味で、あまりにも直接的すぎる表現であったがmPunchは決して間違えていないと感じる。
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