シェイクスピアより語彙力があるラッパーたち。一流ラッパーの語彙力に驚こう

 

リリカルなラッパー/MC

いつの時代もMCとして評価されてきたアーティストたちは、誰が一番リリカルでクレバーなラップを書けるかということで競い合ってきた。近年はマンブルラップの台頭で、リリカルなラップが下火になっているかもしれないが、やはりMCの本分と言ったら、リリックであろう。世の中にはリリックでストーリーを描く者もいれば、リリックで若者を救う者もいる。よく「ヒップホップは治安の悪い音楽だ」なんていうステレオタイプが横行するなか、実は文学の金字塔であるシェイクスピアより語彙力があるラッパーたちが存在していることを知っているだろうか?

マット・ダニエル氏が数年前に公開したポリグラフは、リリックサイト「Genius」から各ラッパーのリリックを抽出し、ユニーク単語数を数えたものとなっている。2014年に既に話題になったので、見たことある方も多いと思うが、改めて注目してみたい。

http://poly-graph.co/vocabulary.html

メルヴィルの超大作小説「白鯨(モービーディック)」とシェイクスピアの複数の作品から35,000単語を抽出し、そのなかからユニーク単語数をデータに起こしたものが基準となっている。右側にある赤い印の2つが「白鯨」とシェイクスピアの単語数となっている。ラッパーも上記小説と同じように35,000単語を抽出し、そのなかに含まれているユニーク単語数を数えている。

このようにして見るとまず印象に残るのは「白鯨」の単語数がかなり多く、さらにそれを超えているラッパーも3人いるということだ。

 

「白鯨」を超えたトップ3人


 

Aesop Rock(イソップ・ロック)7392単語

ダントツでトップに輝いたのはAesop Rock(イソップ・ロック)である。A$AP Rockyではないので注意を。NYで生まれ、ポートランドにて活動する彼のラップは、さすが「Rhymesayer Entertainment」所属だと言える。彼は他のラッパーに比べてずば抜けた語彙力を持っているようだ。実際にラップを聞いているだけでも彼の言葉のレパートリーに驚かされる。

 

GZA(6426単語)


2位となったのはウータン・クランのGZAのソロである。ウータン・クランとしても7位となっているが、やはりGZAはメンバーのなかでもリリシストとして特出して高い評価を得ている。

 

Kool Keith(クール・キース)6238単語


Ultramagnetic MCsのメンバーとしてデビューをしたKool Keith。現在53歳のベテランラッパーで「ホラーコアの生みの親」と自己評価をしているMCである。彼のようなオールドスクールから活躍していた人が3位となるのは素晴らしい功績だと感じる。

 

 

「白鯨」以下でシェイクスピア以上のラッパー


捕鯨には勝てなかったが、シェイクスピアには勝ったラッパーを数人紹介しよう。

Canibus(5991単語)

エミネムとビーフをしていたことで知られているラッパーである。実際にはエミネムほどの成功を得ることができなかったが、リリカルスキルとしてはトップレベルである。

 

CunninLynguists(カンニンリングイスツ)5971単語


2000年から活動しているケンタッキーとアトランタのヒップホップグループ。彼らもまたリリシズムで評価されているアーティストだ。Outkastを含むクルー「ダンジョンファミリー」のメンバーとの共演も多数ある。

 

Wu-Tang Clanの面々(5895単語)


ウータンクランのRZA、Ghostface Killah、Killah Priestがこの層に固まっているので一括りにさせて頂きたい。このようにしてみるとWu-Tang Clanがなぜ最強のヒップホップグループかということがわかる。

 

The Roots(ザ・ルーツ)5803単語


ウータンクランを最強のヒップホップグループとするなら、The Rootsは最強のヒップホップバンドであろう。MCのBlack Thoughtのリリカルスキルはあまり話題にはあがらないが、よく「あなたの好きなラッパーが好きなラッパー」と言われるほど業界内では評価をされている。さらにはバンドとしての演奏力もトップレベルである。

 

Kool G Rap(クールGラップ)5394単語


Juice Crewの一員でもあり、Jay Z、Nas、Notorious B.I.G.などのラッパーを影響したとしても知られるラップベテランである。マフィア風味のストリートラップをした最初のラッパーだとも言われている。

 

MF Doom(MFドゥーム)5204単語


MF Doomほど多大な影響を与えたプロデューサー/ラッパーは数えるほどしかいないだろう。彼はMadlib、Ghostface Killahなどのアーティストとコラボプロジェクトをやっており、近年は若手ラッパーBishop Nehruとの「Nehruvian Doom」をリリースしている。アメコミの悪役「ドクター・ドゥーム」のようなマスクを被っており、自分を「スーパーヴィラン」と呼んでいる。

 

Outkast(アウトキャスト)5212単語


もはや説明も不要かもしれないが、サウスはOutkastからはじまったと言っても過言ではない。それほど彼らの影響は大きかったのである。まだヒップホップが東と西でわかれていたとき、初のサウス出身のヒットアーティストとして注目を浴びた。特にAndre 3000に影響されたと語っているラッパーは多い。Andre 3000ばかり注目されるが、Big Boiもリリシストとして負けてはいない。

 

その他にはレッドマン、Blackalicious、そしてベイエリアのベテランE-40がシェイクスピアに勝っている。

 

いかがだろうか?ヒップホップの文学性とウータンクランの凄さがわかるデータだと感じる。しかし以外にもJay Z、Rakim、エミネムなどの「レジェンド」とされるラッパーたちが割りと平均的なところに位置している。そしてさらに以外なのが、TygaがJay Zより上であり、KRS-Oneと同じレベルにいるということだ。実際には語彙力でそのラッパーのリリカルさが完全に計れるわけではなく、メッセージ性や内容によっても変わってくるものだ。例えば2PacはNicki Minajより語彙力が低いというデータが出ているが、彼のようなメッセージを打ち出せるブラックリーダーは他にはいないだろう。

またこのグラフでわかるのは、「ヒップホップは言葉の芸術でもある」ということだ。ラッパーが辞書を読み込んだり、ポエットを名乗る意味がよくわかる。皆さんの好きなラッパーはどのへんにいましたか?

【ラップの矛盾?】ヒップホップはリリカルであるべきなのか?時代を追って考える

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