ケンドリック・ラマーの新曲「The Heart Part4」のディスリリックを解説。誰に向けたディスなのか?

Courtesy of kendricklamar.com

 

The Heart Part4

本日リリースされたKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の新曲「The Heart Part4」。昨日の告知からの今日リリースであったため、ヒップホップ界は驚きを隠せなかっただろう。他の話題は全てかき消され、あれだけ話題になっていたDrakeの「More Life」も存在感が薄くなったように感じる。

そんなケンドリックの「The Heart Part4」ではトランプの名前を挙げているので、彼に向けたメッセージもあるのは明らかである。しかし2ndヴァースでは他にもディス対象がいるようだ。この記事では2ndヴァースのリリックを解説しつつ、誰のことをディスっているのかを推論をしたい。(全編リリックはこちら

 

ドレイク or Big Sean


My fans can’t wait for me to son ya punk ass and crush your whole lil shit
I’ll Big Pun ya punk ass, you a scared little bitch
Tiptoein’ around my name, nigga ya lame
And when I get at you homie don’t you just tell me you was just playin’
(Oh I was just playin’ with you K-Dot, c’mon
You know a nigga rock with you, bro)

Shut the fuck up, you sound like the last nigga I know

俺のファンは、俺がお前のことを赤子の手を捻るように潰すのを楽しみにしてるんだ。
生意気なお前を「Big Pun」してやる、お前は臆病者のビッチだ
俺の名前の周りをチョロチョロとしやがって
俺がお前に攻撃したら「フザケてただけじゃん」で済ませられると思うなよ?
(???「ケンドリック、俺らはただフザケてただけじゃん…俺はお前をリスペクトしてるぜ」)
黙ってろ、お前もあいつみたいな言い訳しやがって

 

2ndヴァースではいきなり誰かに向けたアグレッシブなディスから入る。この場合の「Big Punしてやる」というのは「Big Punのようなリリカルでかつアグレッシブなラップで殺す」という意味ももちろん含んでいるが、Big Punの気性が荒く、残忍な私生活に「自分の怒り」を例えているのだろう。Big Punの家には常に多数の銃が備えられており、実際に彼が銃で結婚相手を殴っている映像も出回っている。また、Beanie Sigelの頭を酒瓶で殴ったエピソードやJay Zを追っかけまわしたエピソードなども有名である。このBig Punというフレーズが「Remy Ma V.S. Nicki Minaj」のビーフにおいてRemyサイドをとる表明かとも一瞬思ったが、個人的な見解としては、特に関係ないのかな…という結論に至った。(ケンドリックが口出しするほどのスケールではないのかもしれない)

さらにこの「フザケてただけじゃん」というフレーズが引っ掛かるだろう。このフレーズを使ったということは、以前から水面下でディスりあっていた人に向けて書いていると予想ができる。こちらは様々な米ヒップホップメディアにて様々な憶測が飛び交っているのだが、そのなかで主力な候補が

DrakeとBig Sean

Big Seanの「No More Interviews」の返答とも言われているが、個人的にはこれはBig SeanよりもDrake(ドレイク)のほうが有力だと感じる。Drakeとケンドリックはお互いの名前をメンションしていないものの、長年水面下でサブリミナル的にディスりあってきた。2人がサブリミナル的にディスり合いしている曲はかなり多いので、こちらで説明はできないが、きっかけはBig Sean「Control」でのケンドリックのヴァースと言われている。Drakeはあのヒップホップを震撼させたヴァースを言葉の意味通り受け取ったのか、それ以来ケンドリックに向けて書いたと思われるリリックを複数リリースしている。(この辺はいつかじっくり紹介したい)上記の「you sound like the last nigga I know(お前もあいつみたいな言い訳しやがって)」の「あいつ」はJay Electronicaのことであろう。Jay Electronicaは「俺はケンドリックより凄い」的な発言をして、後に謝罪をしている。

しかしBig Seanの線も消すことはできないだろう。ドレイクの「More Life」と「Views」ではケンドリックへのレファレンスはなく、もしかしたら2人の関係は水面下で解消されているのかも知れない。Big Seanに関しては「No More Interviews」で「速くラップするやつには感心しない」とラップしており、さらには「勝手にラップの救世主を名乗るな」ともメンションしている。そう考えるとケンドリックの当曲に出てくる「俺がラップの救世主」というフレーズも合点が行く。Big Seanは、「アルバムにSkitを多数入れて評価されているラッパー」に関しても批判をしており、そう考えるとケンドリックのg.k.m.c.はSkitでも評価されている作品だ。

 

Yellin’, “1, 2, 3, 4, 5
I am the greatest rapper alive”
So damn great motherfucker I’ve died
What you hearin’ now is a paranormal vibe
House on the hill, house on the beach nigga (facts)
A condo in Compton, I’m still in reach nigga (facts)

「1,2,3,4,5 俺がこの世で最も偉大なラッパーだ」と叫び
偉大すぎてもしかしたら既に死んでいるのかもしれない
今聴いているものはパラノーマルなできごとだ
丘の家とビーチの家
でもまだコンプトンのコンドミニアムもあるから、立ち位置は変わっていない

 

この「1、2、3、4、5」というフレーズを聞いてKRS Oneの「俺が1番凄いだってのは嘘だ。俺は1、2、3、4、5番全部だ。」というフレーズを思い出した。J. Coleが「死なないと偉大なレジェンドにはなれない」と言っているように、ケンドリックは自分が偉大になりすぎて、もしかしたら既に死んでいるのかもしれないと説明している。さらには、丘にもビーチにも家を買えるほどの成功をしていながらも、まだコンプトンにも家を持っており、コンプトンで起こっているできごとにも敏感だということを示していると考えることができる。

 

トランプとアメリカの選挙システム


Donald Trump is a chump, know how we feel, punk
And Russia need a replay button, y’all up to somethin’
Electorial votes look like memorial votes
But America’s truth ain’t ignorin’ the votes

ドナルド・トランプはマヌケだ。俺らがどう思うか理解しろよ
ロシアにはリプレイボタンが必要だ。なんか企んでるだろ
選挙人団投票は記念投票みたいなもんだ
でもアメリカの真実は「投票」を無視していない

 

ロシアとプーチン大統領が今回の選挙において関与している可能性があるというニュースは世界的にも話題になった。そちらの調査は打ち切られているが、ケンドリックは「リプレイボタン」で実際に何が起こったかを知りたがっている。

さらにこの曲において最もレベルが高いと思われるラインはここである。ラッパーがトランプをディスるときは、どのメディアも絶賛をするが、実際には「何故批判をしているのか」という論理的な理由が見えてくることは少ない。そんななか、ケンドリックはアメリカの「投票システム」の「欠陥」を指摘している。アメリカの選挙における投票システムは「勝者が全てを持っていく」と言われているように、実際には民衆の投票で当選するわけではないのだ。

Electoral Vote(当曲では韻を踏ませるためElectorialになっている)」とは「選挙人団投票」のことであり、アメリカの選挙システムである。私は政治が専門ではないので、ものすごーく簡単に説明をすると(間違えてたらすいません…)

①州のサイズによって「選挙人団」の数が違う
(例:A州は選挙人団30人、B州は選挙人団25人)

②州民が民主党、共和党などの政党/候補者に投票する
(例:A州では55%が民主党に投票し民主党が勝つ、B州では100%が共和党に投票)

③その州内で勝った政党がその州の「選挙人投票」を全部持っていく
(例:A州民主党30人、B州共和党25人…民主党の勝ち!)

例えば上記の例だと、単純な数では共和党への投票数が多いが、実際に最後に当選するのは民主党であり、実際にジョージ・ブッシュ大統領の当選はこのような形になっており、トランプにおいても同じことが予想されている。ケンドリックはこの「Electoral Vote」のシステムが「民主主義」ではないと語っており、アメリカの「真の投票数」を無視することはできないと語っている。今までトランプを批判してきたラッパーのなかでも最も鋭いツッコみだと思われる。(追記:選挙人団についてかなり分かりやすい記事を見つけました

 

再度ドレイク?


Hoe, Jay Z Hall of Fame, sit your punk ass down (sit yo’ punk ass down)
So that means you ain’t bigger than rapping

おいJay Zは殿堂入りだぞ、お前は座ってろ。
お前が「ラップそのもの」より大きいわけがないだろ

これも恐らくドレイクに向けて書かれたものだと感じる。ドレイクは「Summer Sixteen」にて「以前はロッカフェラに入りたかったけど、気がついたら俺がJayの立場になっていた」と語っており、「自分がJay Z並に偉大な人物になった」とラップしていた。ケンドリックはJay Zを「ラップそのもの」と例えており、「Jay Zは殿堂入りだぞ。お前はJay Zレベルではない」と言っているため、ドレイクに向けていることが予想できる。Jay Zの殿堂入りの記事はこちら

いかがだろうか?ケンドリックの新曲におけるディスはこのような内容となっている。まだそこまで時間をかけて聴き込むことができていないので、もしかしたら勘違いはあるかも知れないが、米ヒップホップメディアなどの情報を見る限り、このような内容が有力であろう。

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。