46歳ベテランになっても最強のラッパー。多くのことを証明したBlack Thoughtのフリースタイルの一部を解説
グレイテスト・ラッパー
のリストを作れと言われたら誰を思い浮かべるだろうか?近年だとケンドリック・ラマーやJ. Coleを思い浮かべる人も多いと思うが、やはりリストの常連となるのはRakim、2Pac、Notorious B.I.G.、Nasなどであろう。個人的には上記に加えRedman、Andre 3000、Scarface、Kool G Rapなどを入れたい。そのなかで、個人的に外せないのが伝説的なヒップホップバンドThe RootsのBlack Thoughtである。以前Black Thoughtについては、「Black Thoughtはトップラッパーだと思いますか?」という記事を書いた。
これはDJ Vladの「Black Thoughtはトップラッパーではない」という発言を元に、読者の皆様にどう思うかを問いかけた記事である。個人的にはBlack ThoughtほどMCというアートをマスターした人はいないと思うのだが、世の中には彼のスキルを信じていない人も多少いるということを知った。しかし今回そんなDJ Vladの意見を吹き飛ばすような動画が公開された。それはHot97のFunk Flex Freestyleである。
「Black Thought」という言葉がアメリカのツイッターでトレンド入りするほどのインパクトである。彼は1テイク10分以上のリリカル・エクスプロージョンを見せつけ、普段は辛口のFunk Flexも彼の言葉遊びを聞きながら真剣な顔をしたり共感したりしている。これは単純に長くカッコいいラップをやったということではない。彼は「バー」の次に「バー」を重ね、10分間で一度も「これはダサいな」と感じるラインがないのだ。数回聞いた結果、特に私が気に入っているラインは下記である。
We walked past the teacher take the chalks and laugh
We wrote punishments, I will not talk in class
Now it’s pistols punishing people for talking fast
俺らは先生を追い越してチョークを盗んで笑ったりしていた
罰として「授業中に喋りません」って書かされた
でも今では喋りすぎた人に銃が罰を与える
Rap on a doctrine level F. Scott Fitzgerald
Maybe I’m the new Rakim
Maybe I’m fat Pharoahe
Undergarments of armor be my intimate apparel
Pre-Kardashian Kanye
My rhyme-play immaculate
Same cadence as D.O.C Pre-accident
Maybe my acumen on par With Kool G Rap and them
Give me the proper respect Mu’fucka we back again
俺のラップはF・スコット・フィッツジェラルドのように教理のレベルだ
もしかしたら俺が新しいラキムかもしれないし
もしかしたら俺がファットなファロアかもしれない
鎧の下着が俺の普段のアパレルだ。
カーダシアンと出会う前のカニエのように
俺のライムプレイは一点の曇りもない
事故の前のD.O.C.と同じカデンス
Kool G Rapと肩を並べる洞察力かもしれない
俺に正当なリスペクトをくれ。もう一度やる。
My mother was a working class very lovin woman
Who struggled, every dinner could’ve been the last summer
I come home, chasing good-for-nothing half–cousins
And then walk in the crib to the smell of crack cookin
She was introduced to that substance abuse
On some of the strongest drugs that the government produced
俺の母親は労働者階級で、人に愛される女性だった
苦労をして、毎晩の食事が最後になる可能性もあった
なんの役にも立たない半イトコを追いかけて帰宅した
クラック・コカインの匂いが家に入ったと同時にしてきた
彼女は政府が作ったもっとも強力なドラッグの世界に紹介されてしまった
If a black man don’t tap dance
And every girl that got a fat booty don’t lapdance
Well I guess it’s something wrong, huh?
黒人男性がタップダンスしなければ、
デカいケツを持った女性がラップダンスをしなければ
お前らは何かがおかしいって思うんだろう?
Panther mind, I’m made of elements you can’t combine
I’m at a level of intelligence you can’t define
Einstein, Shakespeare, Voltaire, Tesla
Recording artist slash psychology professor
(ブラック)パンサーの心と、お前が組み合わせることができない要素でできている
俺の知的さはお前が定義できないレベルである。
アインシュタイン、シェイクスピア、ヴォルテール、テスラ
レコーディングをするアーティスト兼、心理学のプロフェッサー
When I was reckless I was worried ‘bout the guest list
I’m helping rappers everywhere fulfill a death wish
俺が若く無謀だった頃はゲストリストを心配していた
今はラッパーたちのデスウィッシュ(死の願望)を叶えている。
Brain matter contain too much data
I tell a story like fingerprints and blood splatter
俺の脳みそが保持するデータは大きすぎる
俺は指紋と血痕のようにストーリー(真実)を伝えていく。
ざっと聞いて「うおお」となったパンチラインの訳と、韻の簡単な解説をしたが、これを見れば彼が「トップラッパー」であることは一目瞭然であろう。言葉遊び、比喩表現、マルチ音節の韻、フロー、デリバリーも備わっている。さらにラップをしている方であれば気がつくと思うが、彼のブレスに取り方が素晴らしく、恐らく循環呼吸的なスキルも身についているようにも思える。USツイッターでトレンド入りするのが理解できる「フリー・オブ・スタイル」となっている。今後は誰もこのMobb Deepの「The Learning」でフリースタイルする者はいないだろう。
彼が証明したものは、「俺がトップラッパー」ということだけではない。以前Playatunerで書いたAndre 3000の台詞と考察を覚えているだろうか?Andreは「ラップというものはボクシングのようなものだ。年をとると鈍くなる」と発言していたが、Black Thoughtを見ていると、逆に年々シャープになっているように思える。彼はAndreの発言が一般的なものではないことを証明したのだ。もしここで多くのラッパーのように「昔のほうがよかった…」と思わせるようなヴァースをスピットしていたら、「Andreの発言は正しかったんだ…」となるかも知れないが、46歳のBlack Thoughtは現代のラップゲームの誰よりもハードにスピットをした。Royce Da 59、Tech N9neに加え、Black Thoughtは人生経験を重ねるごとにシャープになるタイプなのかもしれない。(しかし実際はAndre 3000の近年のヴァースも素晴らしい)
Black Thoughtが一般的に過小評価されているのは、恐らく「キャラクター」が見えてこないからだと感じる。一般的にはやはり音楽とラップから「キャラ」が見えてきたほうが、「人気」になるのだろう。「キャラクター」という要素は2Pac、ビギー、Jay-Z、Snoop Doggにも共通するものである。しかしBlack Thoughtは「MC」という芸術を超ピュアな形で保っているため、「ラップが上手い」という印象で止まってしまうのかもしれない。しかしこのビデオで彼のMCとしての一般的なリスペクトはブーストされるだろう。
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