「最近の若者は先人たちをリスペクトしない」という批判について。Lil’ Yachty、ラップブーム、私のミッション
Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)
最近シーンをお騒がせしているアーティストLil’ Yachty
皆さんこのLil’ Yachty(リル・ヨッティ)をご存知だろうか?アトランタ出身の1997年生まれの19歳のラッパー(?)である。いわゆるオートチューンを使用し、ラップとはいえないような歌を歌うようなスタイルなので、そもそもヒップホップのジャンルに入れるのが間違えているのかも知れないが、ヒップホップアーティストからも賛否両論のアーティストである。本人も「俺はラッパーじゃない」と発言している。
そんな彼がなぜ物議を醸しているかと言うと、彼のヒップホップ・レジェンドに対する発言が批判されているのだ。とあるインタビューで、彼は「2PacとNotorious B.I.G.の曲は5曲も知らない」という発言をしている。さらには上記の動画ではビギーが過大評価だと言っている。
次々に彼を批判をするアーティストたち
このような発言を受け、ヒップホップファンやさまざまなアーティストたちが彼の浅はかな発言を批判している。
例えばAnderson .Paakは「自分がヒップホップの歴史を知らないことを生意気に自慢するな、本物のアーティストは常に先人から学ぶんだ。」とツイートしたり
Don’t be cocky in the fact that you don’t know anything about hip hop history. Real artists are students of the game first
— Andy $ide$tick (@AndersonPaak) 2016年8月27日
RA the Rugged Manは「Lil’ Yachtyは黙って音楽業界から出ていけ。もしカルチャーを次のステップに前進させる気がないなら音楽をやめろ」とも言っている。
正直気持ちはわからなくはない。私も彼の音楽を聞き、価値観が違うアーティストだと感じたし、彼の2Pacやビギーに対する発言にも驚いた。そもそもLil’ YachtyやLil’ Uzi Vertなどのアーティストをヒップホップの括りに入れることが間違えているのだろう。
Lil’ Yachtyに怒るのは正しいのか?
ヒップホップ業界ではいつも「新人がレジェンド/先人たちをリスペクトしていない」という批判が横行する。Qティップがイギー・アゼリアに長文メッセージを送った件もそうだった。私も70sファンクや80s/90sヒップホップが好きなので気持ちはわかる。しかしここで気がつかないといけないのは「先人の音楽をリスペクトし、音楽を文化として愛する人を増やす」というミッションに業界として失敗しているということだ。(Qティップのイギーに対するメッセージはかなり優しくヒップホップのオリジンを説明してあったので感動したが)
失敗と言ったら語弊があるかも知れない。このような新人が、先人や積み重なったカルチャーをディスリスペクトする度に、アーティストたちは自分が責められたかのように怒り、批判し、ほとぼり冷めるまで反撃し続ける。しかし自分たちが普段から積極的にクラシックなどをSNSで紹介し、広めているわけでもない(そもそも自分がクラシックとされている人はしないであろうが)。カルチャーを大切にしている若い世代のアーティストでも実際に「カルチャーや理念」を分かりやすく発信している人たちがどれだけいるだろうか?
確かに「それはラジオDJの仕事であってアーティストの仕事ではない」や「人に教わるより自分で発掘しろ!」という意見もあるであろう。だが情報が乱立し、クオリティの低い情報が多く入ってくるようなインターネット社会で、「人に教わるより自分で発掘しろ!」という体質がこのような事件の根本的な原因だと私は考えている。やはりわかりやすく発信し、守っていく部分は守り、進化する部分は進化を促進させるような業界であったら、少しは業界全体として活気づくのではないかと考える。
Lil’ Yachtyは実際に今回のビギーの件で相当叩かれたようで、ビギーのアルバムを全部聞き、何故彼が評価されているのかを理解したと話している。さらにラジオ番組でフリースタイルを披露する際には90sクラシックのCraig Mack「Flava in Ya Ear」のビートを指定し、今までと違うスタイル/クオリティでラップをしている。そう、彼はアーティストとして私達の目の前で進化しているのだ。
このようなできごとがあった時に「怒っていてもしょうがない、自分で発信するか」と思ったのもあり、このような形で自分が恩恵を受けた「文化」を発信をしている。発信してみれば、今回のLil’ Yachtyみたいにそれに共感してくれる人が増えると信じている。そして「文化の保守」と「新しい感性」による進化のバランスがアーティストの中で取れたとき、大量の一般リスナーが「リスナー」から「文化をフォローする人」に変わるのであろう。ケンドリックのTPABがいい例なのかも知れない。そういう意味でQティップがイギーに送ったメッセージは正しい選択だと感じる。
現在のラップブーム
日本では数回ラップブームが訪れた。私はアメリカ育ちで日本のヒップホップについては正直疎いのであまり詳しいことはわからないのだが、いずれもブームで終わったと聞いている。アメリカでは特にヒップホップファンではない一般リスナーもヒップホップを当たり前のように聞く。しかし日本ではそのような光景はあまり見ない。これはもしかしたらメディアの打ち出し方が原因なのかも知れないと感じた。「ラップ」は「ヒップホップ」という文化を伝える手段である。その手段だけを見せていても、人生レベルで人の心に入り込むことはないのだ。CMやテレビ番組で使用はされるが、ヒップホップという文化を理解させるものどころか、「面白いww」で終わってしまうような内容が多いのではないだろうか?さらに、もしかしたら文化に恩恵を受けた人たちが発信する場がないのでは?と思ってしまう。自分の人生を豊かにしてくれた文化に対して何かを還元したいと考えている私はここで発信しつづけ、同じような人たちが発信できるプラットフォームを近い将来作りたいと思う。
(追記:リリシズムの進化については下記の記事がオススメ)
ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Steezy, incの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。
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