【ラップの矛盾?】ヒップホップはリリカルであるべきなのか?時代を追って考える

 

ラップと言ったらリリック

という相場はあるだろう。いかにスマートでウィットがきいた韻を踏み、理解をした瞬間に頭を抱えたくなるようなリリックを書くのがMCの理念とされている。実際にRakimNasKRS-Oneなどの偉大なヒップホップアーティストにはそのような共通点がある。

しかし現在流行っているマンブルラップに対して「今のラッパーたちはリリックがクソだ」という批判も多い。リリックもテンションゲーであり、盛り上げるためだけのラップは「リアルなラップ/ヒップホップ」ではないという批判を毎日のように見る。以前書いた「現在のヒップホップはクソという批判について」という記事と少し内容がかぶるが、「ラップのリリカルさ」について考察してみようと思う。

「最近の若者は先人たちをリスペクトしない」という批判について。Lil’ Yachty、ラップブーム、私のミッション

 

2016年のラップ


2016年のラップにおいて批判の対象となったのは2016年のXXL Freshmanであろう。もちろんLil’ Dicky、Anderson .Paak、Dave East、G Herbo、Dave Eastのようにラッパーとしてスピットしている人もいるが、この動画は特に批判されていた。明らかに例年のフレッシュマンサイファーよりは「リリックの質」が下がっているのだ。どちらかというとMCとしてよりは、トラップスタイルで盛り上げるようなスタイルを、そのままサイファーでやっている人が多いと言うのが印象である。特にLil Uzi VertやKodak Blackのヴァースを見れば私が言っていることがわかるだろう。

 

ラップはずっとリリカル?


ここでラップがどのようにして変化してきたかを考えてみると面白いだろう。先日とても面白いインタビューを読んだので、少しその内容を紹介したいと思う。これはリリシストとして高く評価され、難解でスマートなラップの第一人者として知られるPharoahe Monch(ファロア・モンチ)のHipHopDXのインタビューである。(追記:Playatunerでもこの件でファロア・モンチにインタビューしました!

彼のグループ「Organized Konfusion」が80年代後半〜90年代前半に出てきたときは、なんと彼らが「ヒップホップを殺している」という批判を受けていたらしい。今聞くとむしろこれがラップリリックのあるべき姿だと感じてしまう。

しかし当時の「ヒップホップファン」からは「ラップは皆で楽しくノレるような音楽だったのに、今の奴らは難しくしすぎだ」と言われていたと語っている。確かにRun DMCなどがピークであった時代の少しあとに、ファロア・モンチのようなフローやリリックのラッパーが出てきたら、そのギャップに驚くだろう。ちなみにファロア・モンチはDesiignerなどの最近のラッパーも好きと語っている。

そのように考えると、他に出てきた当時に批判されていたアーティストとして挙げられるのが、Bone Thug-n-Harmony(ボーン・サグスン・ハーモニー)やTwista(トゥイスタ)である。ボーン・サグスン・ハーモニーに関しては、ビートのテンポをガッツリ下げ、早口でラップした先駆者だと言っても過言でないだろう。さらにラップにメロディーを混ぜたスタイルは、とても斬新だったに違いない。今では考えられないが、当時は彼らを「もっとノレるラップするべきだ」や「聞き取りやすくラップするべきだ」と批判する「リアルヒップホップ」ファンたちがいたとのこと。まさに近年のマンブルラップにたいする批判と同じような内容である。

 

ラップの矛盾?


ラップは皆で楽しくノレるような音楽だったのに、今の奴らは難しくしすぎだ」というのが元々のコンセプトであったら、ラッパーをリリックスキル無さで批判するのに矛盾があるのかもしれない。もちろん80sのラッパーもかなり工夫をしてリリックを書いていたであろう。しかし確かに韻の複雑さが目立つようになったのは90sに入ってからだと感じる。私はラッパーとして、さらに90sヒップホップのファンとして、もちろんリリックが大切だと思っている人なのだが、近年のアーティストをリリックスキルで批判するより、他の良い箇所を探すほうがポジティブな音楽人生を生きられるだろう。

このように批判の対象が今まで入れ替わってきたことを考えてみると、音楽というものがいかに早い期間で進化するかということがわかる。とくにヒップホップというジャンルは他のジャンルに比べてスパンが短いのかもしれない。

以前書いた「Rakimが説明するMCとラッパー違い」という記事でも「ラッパーは、盛り上がりがメインで、席を暖めて盛り上げる」と語っていたのもあり、やはり「MC」と「ラッパー」というものをわける必要があるのかもしれない。(ラキムのマンブルラップに対する意見も素晴らしいのでチェックしてほしい。)ただ一つ言えるのは、時間が立つにつれ「リアル」というものが変化するということだ。大体15年前ほどの音楽が「リアル」とされている傾向がある。そもそも「リアルなヒップホップ/音楽」ってなんだよ、って議論を歴史を追ってする必要があるのかもしれない。

「自分が良いと思った音楽をやる」

それが「リアルな音楽」とされるかは、世に出さないとわからないが、これがやはり音楽においてイノベーションを起こし、時代を変えるために一番大切なことだろう。そう考えるとRun The Jewelsがアーティストが向けたアドバイスが全てだと感じる。

伝説のMCラキムがサウスのヒップホップやリリカルじゃないラッパーについて語る。

ライター紹介渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Steezy, incの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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