【第2弾】ストーリーとオチのあるヒップホップ曲5選。各ストーリーの解説/考察
リリシストが魅せるストーリー
ヒップホップの内容と言ったら「ドラッグやギャングを美化する」というステレオタイプがあるだろう。しかし美化ではなく、きちんとストーリー/メッセージを伝え、リスナーを魅了するMCたちが多いのもヒップホップの特徴であろう。先日の「シェイクスピア以上の語彙力を持ったラッパーたち」や「Ab-SoulのEvil Genius」からも理解できるようにヒップホップは非常にアカデミックなジャンルでもあるのだ。語彙力の次は「ストーリー性」に注目し、オチのある曲をまた5曲選んでみた。第1弾はこちら。
Common – Testify
第1弾でも選んだCommon(コモン)であるが、彼のストーリーテリング能力は「I Used to Love H.E.R.」だけには留まらない。「Be」に収録されているこの「Testify」ではまるで映画のようなオチを提供してくれている。リリックがわからなくてもMVの映像を見ているだけでストーリーがつかめてくるので、是非見て欲しい。
ストーリー:主人公となる女性は夫が殺人罪やコカイン所持の疑いで捕まってしまった。夫は身に覚えがないと言うし、彼を守るために警察には「彼は良き夫であり、良き父であるからそんなことをするはずがない」と供述していた。しかし警察は次々に有罪の証拠を見つけたのもあり、裁判では夫が不利になってしまった。「夫を連れていく前に証言させてください」と懇願する彼女の気持ちがメインテーマとなっているが、最後にオチがくる。曲の最後に有罪判決が出たところ、彼女はそれまで泣いていた顔を上げて、笑顔で裁判所を後にするのだ。そう、この事件は彼女が夫を有罪にするために仕込んだものであった。
Immortal Technique – Dance With the Devil
【閲覧注意】今まで聞いたヒップホップ曲のなかでも最も後味の悪く、かつ最も重いメッセージのストーリーとなっている。アンダーグラウンドラッパーとして絶大なるファンベースを築いてきたImmortal Technique(イモータル・テクニック)の代表曲であるが、このラップはストーリーテリングのマスターピースであろう。
ストーリー:主人公はウィリアム(通称:ビリー)という青年である。彼は欲深く、将来の夢は大金持ちのハッスラーになることであった。父親はいなく、母親はドラッグ中毒者であった。母親はドラッグから手を引いたが、彼女をみて育ったビリーは13歳からウィードの売人をはじめたのである。ストリートでは、「ドラッグを売れること」と「盗みが出来ること」の2つがリスペクトされる要因だと知っていたので、段々ダークサイド陥るようになった。しかし一度捕まってしまい、そのときは警察にたいして密告をしてしまったのである。
密告屋はストリートでは一番リスペクトされないことを知っていた彼は、ストリートでの信頼を回復するために、さらに犯罪に手を染めてしまう。「欲深い」彼は、ギャングとしてのリスペクトとお金をさらに欲していたため、ウィードだけではなくコカイン売買にも手を出すようになる。ギャングとクルーの信頼を取り戻すために、泥棒から殴り合いまで、命じられたことは全てやってのけた。しかしギャングの信頼はなかなか回復できなかった。
ある日、ギャングから「冷酷だと証明できれば入団を許す」と言われる。その条件とは女性を強姦することであった。彼は今までのように日々のドラッグ売買の生活に戻るか、条件として命じられた罪を犯して大金持ちへの道を歩むのかを考えたが、欲に負けて条件に同意する。彼とギャングは深夜に現場に向い、とある女性の頭に布をかぶせて誘拐した。女性が言うことを聞かないので、彼は彼女が静まるまで頭を蹴り、犯行に及んだ。最後にギャングに「彼女を殺せ」と命じられ、銃を渡された。もうここまで来てしまってからは後戻りできないと思い、女性を撃つために被せてあった布を取ったときにストーリーのオチがくる。布を取り、彼が見たのは自分の母親であった。彼女は一人で育てた息子が犯行に及んでいたことを知り、今まで以上に泣き叫ぶ。彼の世界は真っ黒になり、そのまま自殺してしまった。犯罪に手を染めることによって「悪魔との契約」をし、その悪魔は死ぬまでつきまとうのだ。
メッセージ:自分の判断を誤り、犯罪に手を染めるということはタイトル通り「悪魔とダンス」することであると語っている。悪魔とは神の元から堕ちてきた存在と言われており、自分がその「悪魔との契約」をすることに、自分も堕ちていくということを上手くストーリーに落とし込んでいる。欲に負けて、ギャング的なライフスタイルに憧れると後は堕ちていくだけなのだ。さらにこのストーリーを伝えている人の目線では、自分もその犯行現場にて加担をしていたので、一生悪魔が付き纏っている状態であると語っている。Immortal Techniqueによるとこのような話は部分的にはフィクションなものの、実際にギャング関連の事件であった話らしい。自分のコミュニティにて犯行をしていたら、自分の周りの人にも確実に影響が出てくるということを伝えたかったと語っている。
Outkast – Da Art of Storytellin’
サウスのアーティストたちがメインストリームにて大成功を収める前に、その道を作ったヒップホップデュオが「OutKast(アウトキャスト)」であろう。彼らは東と西がヒップホップ界を治めていた90年代に、アトランタ出身の初のメインストリームアーティストとして大活躍をしたのだ。「Da Art of Storytellin(ストーリーテリングのアート)」と命名されたこのシリーズの1曲目では、楽曲自体にオチがあるわけではないが、Andre 3000のヴァースがストーリーになっているので紹介したい。
ストーリー:この曲は貧民街に住む女性たちについてラップしている。1stヴァースでBig Boiが紹介した女性Suzy-Screwの友達にはSasha Thumper(サシャ)という女の子がいた。アンドレとサシャは小さい頃から遊んだりしていた。お泊まり会などで、深夜に星を見ながらアンドレは彼女に「将来何になりたい?」と聞いたら、「Alive(生きていたい)」と答えたのだ。アンドレにその言葉が刺さったまま時が過ぎる。
2人とも大人になり、アンドレはラッパーとして成功をする間も、彼女の言葉が気になっていた。地元に戻り、彼女の元を訪ねてみたが「サシャは虐待男と共に消えてしまった」と彼女の母に告げられる。いつか彼女がOutKastのライブの最前列に現れることを願っていたが、2週間後に彼女の遺体が発見された。腕には無数の注射痕があり、お腹には2ヶ月の子供がいた。
メッセージ:「ゲットー/貧民街」にてトラブルに合わずに生きていくことの難しさ、そして人生の儚さを描いたアンドレならではなのヴァースだと感じる。いとも簡単に道を踏み外してしまう環境のなかで、アンドレは「ラップ」という特技に熱中できたから抜け出せたが、悪い男に捕まり人生のチャンスを奪われてしまった女性について語っている。2Pacの「Wonda Why They Call U Bitch」にも共通するストーリーであると感じる。
Jedi Mind Tricks – Uncommon Valor: A Vietnam Story
この曲はベトナム戦争が題材となっており、フィーチャリングされているR.A. the Rugged Manの父親の実話となっている。
ストーリー:R.A. the Rugged Manの父親はベトナム戦争時、アメリカ軍に所属しておりベトナムの前線に派遣されていた。恐ろしい戦争から離脱したいと言っても「臆病者」として非難され、現地の女性や子供が殺されるのを見続けた彼は「本当の敵」に気がつく。本当の敵はベトコンではなく、アメリカ政府なのではないかと疑問を持ち始める。しかし上官の命令に背くことはできず、戦争にて戦い続ける。上官や兵隊が殺されるなか、彼も胸に銃弾を受ける。もう生きることができないと悟った彼は、走馬灯のように今まで会った/戦った人種たちを思い出し、天国では皆で平和に暮らせるのかもしれないと考えた。
しかし彼は意識を取り戻し、自分が生きていることに驚いた。戦争から逃げ出すことはできたので、全てが終わったかと思ったが、アメリカ政府がバラ撒いた「Agent Orange(高濃度枯葉剤)」の副作用から逃げ出すことはできなかった。アメリカはベトコンの隠れ場となる森林の枯死のために、この「エージェントオレンジ」バラ撒いたのだが、それは植物だけではなく人間にも大きな健康被害をもたらすものであった。R.A.の兄弟たちは、自国がバラ撒いた枯葉剤のため先天障害をもって生まれてきており、2006年と2008年に亡くなっている。
メッセージ:戦争は無慈悲であり、絶対にしてはいけないものだ。政府は「自国のために戦え」と言うが、彼らは勝利を手にするために手段を選ばないとR.A.は語る。父親の実話というのもあり、とても恐ろしく悲しいストーリーである。
J. Cole – 4 Your Eyez Only
この作品は曲単位ではなく、アルバム単位でストーリーになっている。こちらに全体的なコンセプト/ストーリーを解説しているので、是非チェックしてほしい。
ストーリー:J. Coleの友人の目線の曲であり、ギャングの道に進んだ友人と、大学へ進んだJ. Coleの人生のコントラストを描いている。
メッセージ:ストリートでは犯罪が「勇敢な男」になるための要因とされているが、人は「愛」を覚えて真の「勇敢な男」になると主張している。この作品の解説はこちら
いかがだろうか?「ストーリーとオチがあるヒップホップ曲5選」の第2弾はこの5曲を選んでみた。このようにヒップホップは「言葉の芸術」であり、とても綿密に練られた作品だと感じる。部屋で映画や小説を観るのもいいが、ヒップホップの物語を深く感じてみることで、今まで見えてこなかった世界への扉を是非開けてほしい。第1弾はこちら!
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