KダブシャインとZeebraが2Pacについて独自の目線で語る。伝記映画「All Eyez On Me」公開決定記念インタビュー!

 

Interview: 渡邉航光(Kaz Skellington)

 

映画「All Eyez On Me」

ディレクターが途中で代わり、度重なるスケジュールの延期に悩まされてきた2Pacの伝記映画「All Eyez On Me」。2017年4月にロックの殿堂入りを果たしたり、他界してから20年以上経っているにも関わらず常に世間の話題になるカリスマ/ブラックリーダーとして知られる2Pac。彼の思想に影響された現代のラッパーたちも多く、後世に最も影響力のあったラッパーのうちの一人である。

そんな彼の伝記映画「All Eyez On Me」が12月29日に日本でも公開されることが決まった。彼の4枚目のスタジオ・アルバムと同タイトルであり、こちらのアルバムに関してはPlayatunerでも何度も取り上げてきた。

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東海岸/西海岸ビーフや、銃撃事件などの出来事も含め、ヒップホップ業界で常に話題になっていた彼であるが、当時の日本のヒップホップ界にはどのように映っていたのだろうか?今回は日本公開決定を記念して、なんと日本を代表するヒップホップアーティストのお二人、ZeebraさんとKダブシャインさんにインタビューする機会を頂くことができた。

ブロンクスで生まれたヒップホップの種を日本で開花させたお二人は、どのような視点で2Pacを見ていたのか?映画「All Eyez On Me」を踏まえて語って頂きました!

 

➖ 本日はありがとうございます!よろしくお願いします!それではいきなりなのですが、映画「All Eyez On Me」を見た率直な感想を頂いてもよろしいでしょうか?多分色々な観点があると思うのですが。 

Zeebra:俺は単純に楽しかったかな。ただ途中に出てくる細かい描写のどこまでが真実で、どこまでが演出なのかとかは気になったね。例えば最後に死ぬ前に車で流してた選曲とか、実際には違う日に話した内容が混ざっているのかとか。結構音楽について熱烈と語っているシーンとかも、実際のところはどんな感じだったのかな〜ってのは気になるよね。

K Dub Shine:う〜ん。面白かったのは、面白かったかな?

Zeebra:まぁ俺らが活動してたのと同じ時代だし、むしろ2Pacは俺と同い年だし。「あぁ、この時代あったな」って感じだよね?

K Dub Shine:そうだね。色々2Pac周りがゴタゴタしてたのが、1994年〜1996年ぐらいだと思うんだけど、俺らはちょうどデビューとかで、自分たちのことで動き回ってたんだよね。アメリカのヒップホップの動きは常に追いかけてはいたんだけど、自分たちがそういう時期だったのもあって。そういう意味ではビギーと2Pacが死んだ時期に関しては、そんなに細かいところまで追いかけられてなかった気がするんだよね。

Zeebra:そうだね。

K Dub Shine:だからこの映画で色々な事件の因果関係を改めて知ることができたね。ラスベガスのチェーン事件とかのシーンを見て「なるほど、こういう時系列だったのか」って思ったし。まことしやかな噂が流れてたけど、当時はそこに関して「真実が知りたい」と思って調べてはなかったんだよね。

 

➖ 今だったら、少しでも何かあった瞬間にComplexのようなメディアがこぞって取り上げて発信するので、日本でもすぐに情報が入ってくると思うのですが、当時は日本に情報が入る際に時差とかはありましたか?どのような感じで日本から見ていたのでしょうか?

Zeebra:いや、死んだって情報はすぐ入ってきたんじゃないかな。

K Dub Shine:94年に彼がNYで銃撃されて、その後裁判になって…俺はそういうメディアハイプのほうから見てたから、「2Pac病んじゃってるんじゃないかな自分を見失ってるな」って感じてたんだよね。世に出たばかりのときに比べて、彼に対する思い入れを持てなくなっちゃった。それこそデスロウが荒れてることは聞いてたし、「変なことにならないといいけどな…」と少し心配してたけど、どんどんビギーとのビーフも激化していった。そういう意味では一歩引いて見ていたね。

Zeebra:破滅的に映ってたね。今でこそヒップホップって破滅的なやつらが多いと思うけど、90年代前半とか80年代後半って建設的なラッパーが中心だったと思うし。俺らも当時20代半ばぐらいだったから、ある程度分別はあったし。まぁ今から見たら20代半ばなんてまだガキなんだけど。

K Dub Shine:そのなかで「行儀悪すぎだなぁ」と思って一歩引いて見てたんだろうね。

 

2Pacと同世代であり、自分たちも日本で活動に集中していたと語ったお二人。映画の面白さを語り、そのなかでも新しい発見があったと語った。2Pacが破滅的に映っており、「変なことにならないといいけどな…」と思っていたが、彼の人生には様々なトラブルが待ち構えていたのだ。デスロウが荒れていたころの話はこちらの記事でチェックすることができる。

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その後、2Pacの印象は、世代によってかなり違うという話題に移る。Playatunerでは2Pacについての記事も多く、彼のリリックから人々がエンパワーされるように頻繁に彼の理念などを取り上げている。ブラックリーダーとして、そして役者としての彼はまさに「ロックスター」であったという内容に進む。

 

「ロックスター」の2Pac


photo: Kento Watanabe

 

➖ 僕は今25歳なんで、2Pacの記事を頻繁に書いているにも関わらずリアルタイムで2Pacの存在を見ていないんですよ。

K Dub Shine:物心ついたぐらいの時期に2Pacが死んでいるわけだしね。

 

➖ 僕らの同世代からすると2Pacってかなり神格化されてて。

K Dub Shine:そうだよね。ケンドリック・ラマーとかもそういう目で見てて、2Pacがやっていたことを、自分でブラッシュアップしてやろうとしているしね。

 

➖僕と同世代のアメリカのラッパーたちに映画の感想を聞くと、神格化されているが故に「あの描かれかたはちょっと納得ができない」という人が多かったりしたのですが、リアルタイムで客観的に見ていた方の目線だとまた違うのだな、と感じました。

K Dub Shine:一歩引いて見ていたのと同時に、彼は役者としてもっと世界に羽ばたくんだろうなって思っていたね。そういう意味でも、彼のキャリアについてそこまで俺は心配はしてなかったのかなって思う。

Zeebra:俺もそんな感じかな。それこそ「I Get Around」とかは大好きだったけど、どんどんイケイケになっていくやつを、当時あまりFeelしていなくて。俺はそこよりも映画「Juice」に出てきた2Pacの役がカッコすぎる!みたいなほうに気持ちが動いてたかな。どちらかというと俳優として見てて、「アメリカのショービジネスも巨大になればなるほど気が狂ってるな…」と感じていた。そういう意味で、彼はロックスターのような存在だったのかな。それまでヒップホップスターが「ロックスター」になるって無かったんだけど、彼の破滅的さ加減は「ロックスター」って感じだった。

それこそ2Pacが死んで、彼の代わりみたいな存在になったのがDMXだったと思うんだよね。ラフ・ライダーズ周りが98年とか99年に、マンハッタンでラッパー狩りをしているみたいな噂はよく聞いてたし。段々そんな感じで激化していって、日本もある意味そうだったのかもしれない。

K Dub Shine:まぁだからヒップホップが80年代に広まって、93年ぐらいにギャングスタ・ラップの時代に変わって、段々ヒップホップというか「ラップ・ミュージック」の定義が変わっていったんだよね。そのなかで、俺は2Pacを反面教師みたいな感じで見てたのかなぁ。

 

実際にリアルタイムで見ていたかどうかで、恐らく彼の印象も変わってくると語った。俳優として世に羽ばたくと感じており、破滅的な「ロックスター」のような印象を持っていたのだ。ここでIce Cubeが「Run DMCがヒップホップをロックスターのレベルまで持っていった」と語っていたことを思い出すが、Run DMCはヒップホップを知名度/音楽的に「ロックスターレベル」に引き上げたのだろう。2Pacに関してはアティチュードが、シド・ヴィシャスやカート・コバーンやミック・ジャガーに共通するような「ロックスター」であったのだろう。ロックの形が少しずつ変わっていったように、ヒップホップ、そして「ラップ・ミュージック」の形が変わっていく様子をお二人は感じていたのだ。

 

神格化された2Pac


➖ 映画は神格化された2Pacではなく、本当に「人間」としての2Pacを描いていたのかなって感じました。非常に人間らしい部分が多かったなと。

Zeebra:逆に神格化された2Pacというのは、どういう感じなの?

 

➖ リアルタイムで彼を見ていない僕の感覚から言うと、どちらかと言うと本当にブラックリーダー、そして民衆をエンパワメントした人として認識をしていて。やっぱり今になるとかっこいいエピソードが多く残されていたり、好きなアーティストのそういうところばかり注目しちゃうというのもありますね。例えば「Me Against the World」や「Young N*ggaz」であったり、女性にたいしてのエンパワーメントとして「Wonda Why I Call U Bitch」や「Keep Your Head Up」だったり、「革命家」としての姿が強いです。例えば僕のカナダの知り合いでRaz Frescoというラッパーがいるのですが、彼が「2Pacが本当にやったことを描いたら革命が起こるから描けない」と言っていて。

Zeebra:ただ、今回の映画でもそうだけど、ブラックリーダーとしての2Pacも凄い描かれていたと思う。それこそお母さんのブラックパンサー的なところだったり、「革命家」としての存在感はずっとあった。心に訴えかける人だった。

K Dub Shine:2Pacのラップは他のラッパーと違って言葉遊びとかもほとんどないし、どちらかと言うと「君に対して語りかけるよ」という感覚があるんだよね。スピーチで大勢に伝えるというよりは、本当に一人ひとりに向けてラップしているように俺は感じるんだよね。それが人々の心に本当に入り込んでいる魅力なんだろうな。まぁあまり映画の話をしちゃうとネタバレになっちゃうけど(笑)

まぁ残念なのは、色んな偶然が重なって、自分を見失ってしまったことなんだろうな…

ブラックリーダーとしての2Pac、そして何故彼のラップが今でも人々の心の糧になっているのかを語ったお二人。「君にたいして語りかけるよ」という感覚は、2Pacのラップに関して非常にしっくりきたフレーズである。確かに一人ひとりに語りかけ、当事者目線になってくれているようにも感じる。問題を抱えている人々に勇気を与え、強く生きる糧になるような「共感力」が彼のラップにあるのはそのためだろう。以前「何故エミネムとケンドリックは人々に共鳴するのだろうか?」という記事を書いたが、こちらの「多重視点」というポイントとはまた違う観点の「共鳴」であると感じる。

そしてお二人に一番聞きたかったこととして、「若者に感じてほしいこと」について伺った。

 

➖ この映画はどの年代の人が見るかで、相当感想が変わってくると思うのですが、僕らの世代とか若い世代が見たときに、どのようなことを感じてほしいですか?

K Dub Shine:まぁ今日本でもラップブームじゃない?色々なラップが氾濫しているなかで、「ヒップホップとは?」という点ではこの映画を見るとわかりやすいんじゃないかな。ヒップホップからギャングスタ・ラップに段々変わっていくなかで、表現する内容とかも変わってくるし。そういう意味では2Pacの人生で、ヒップホップの変遷を知ることができる。

Zeebra:そうだね。ただのギャングスターだったら、シュグ・ナイトに自分の意見を言うこともないだろうし。でも彼のなかの「ヒップホップ」というものをやっぱりあって、そういうところを感じてほしいかな。

K Dub Shine:ブラックナショナリズムというか。子供の頃からの情操教育で「黒人」としてこの国で生きていくことをしっかり理解していたし、その後学校で本気で演劇とかアートの「表現」という部分も学んだし。そういう意味でも色々な場所で、色々なことを学ぶことによってユニークなラッパーになったんだろうね。

Zeebra:後は日本の感覚だと皆「へ〜」って思うかも知れないのが、元々彼がずっと演技とかをやっていたってことだよね。それこそ2Pacみたいな破滅的なイメージを持った子供だったら、「学校の部活とか演劇なんてやってられっかよ!」ってなると思うんだよね。でもパッションというか、自分のやりたいことに対しての本気さが伝わってくる。本気だからこそ、あそこまで行ける。

K Dub Shine:あとは「優しさ」という点かなぁ。凄いハートが熱い人だなぁ、ってのは作品の数とか発言からも伝わるし。昔のインタビューで読んだのは、80年代は父親がいなかったから、Big Daddy KaneとかラキムとかChuck DとかKRS-Oneのラップを聞いて、影響を受けたらしいんだよね。そういう優しさみたいなのも感じることができるかな。

Zeebra:あとは、2Pacが提唱していて、今の時代にすげぇ必要だと思ったのは「コカイン反対!」ってことかな。これすげぇ大切。

 

2Pacの人生を見ることにより、ヒップホップがどのように変わっていったかが理解できる、そう語ったお二人。そして彼の人生を見ることにより、「ヒップホップ」の理念や変遷について知ることができる。彼の「優しさ」や、人々をエンパワーメントしていく姿は、まさに彼の心にある「ヒップホップ」であったのだろう。そして音楽だけではなく、演劇などの表現を「本気」で学ぶことにより、アーティストとしても成長したのだ。これはヒップホップの「サウンド」を作り上げる上で、非常に重要なメンタリティであると感じる。様々な分野の知識と経験は、常に表現するアーティストの味方になるのだ。

また2Pacはクラック・コカインの使用に反対していた人であった。そのようなドラッグがブラックコミュニティを破壊していることを知っていた2Pacは、映画のなかでもドラッグに反対する姿を見せている。以前Smif-N-Wessunにインタビューをしたときにも、80年代後半のクラック・エピデミックについて語っている。LAやNYだけではなく、GoldLinkの地元DMVでもクラック・コカインが蔓延しており、その名残の影響を受けているとインタビューで語った。これは近年の若者に対しても重要なメッセージであり、Playatunerでもメディアとして「近年のヒップホップと流行りのドラッグ使用について」という記事などで、その危険性と人生の目的について書いている。

そして最後にこのような内容でインタビューが締められた。

 

➖ 人間らしく多面的な感情を持っていたり、裏表があるのは悪いことじゃないというメッセージも映画に込められていたのかなと感じました。

Zeebra:そうだね。あとはもしかしたら、2Pacはヒップホップのシーンから「ポップスター」になった最初の人なのかも知れないな。2Pacのめっちゃ売れたダブル・アルバム(All Eyez on Me)が出たとき、正直ヒップホップの現場ではあまり2Pacかかってなかったし。そういう意味でも、もうポップスターみたいな感覚だったかな。

K Dub Shine:俺らはイーストコーストのヒップホップで育ってるから、ウェスト・コーストのヒップホップに少しフィルターをかけて見てしまうっての多分あるんだよね。G-Funkも好きだし、楽しんで聞けるんだけど、ヒップホップかどうかと聞かれると、ちょっと微妙みたいなところも無きにしもあらずだったかな。でもウェスト・コーストに行くと、また受け入れられ方も違うと思うんだよね。2Pacも東のトライステート(ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット)だけではなく、ワールドワイドな受け方をしたってことなんだろうな。

Zeebra:全然違うけど、Krevaみたいな感じ

K Dub Shine:語弊が生まれるよ?(笑)

Zeebra:全然違うけど、例えばKrevaってもうヒップホップだけのところにはいないじゃん?だからヒップホップ好きなやつでKrevaを好きなやつもいるけど、むしろヒップホップの外側でもKrevaを好きなやつは大勢いる。2Pacも当時から白人のファンとかめっちゃいたし。

K Dub Shine:そう考えると、LL Cool Jとかもそういう感じあったよね。

Zeebra:ただ、2Pacのほうがもっとサグな感じがあった。

K Dub Shine:セックスシンボルになったということだね。2Pacは当初から少し背伸びしている感もあったけど。

Zeebra:まぁ「I Get Around」のMVの2Pacもちょっと可愛いしね。

K Dub Shine:余談だけど、De La Soulが「Ego Trippin (II)」で、「I Get Around」のMVをパロディして、ちょっとした確執があったんだよね。

➖ それで2PacはDe La Soulのファンだったから本人たちにわざわざ確認したらしいですね。それで勘違いだって知って、仲直りしたって何かで読んだことあります。そういうところも非常に人間味感じますよね。

本日はお時間を頂きましてありがとうございました!!

 

最後は余談で締められたインタビューであるが、日本のトップヒップホップアーティストのお二人の2Pacの視点は非常に面白いものであった。リアルタイムでアーティストとして活動し、ヒップホップの芽を咲かせようと動いていたお二人の目線は、フラットな目線で見つつも、後世に多くの影響を与えた2Pacに対する愛と期待も感じることができた。その期待が故に「偶然が重なり、結果的に残念なことになってしまった」という気持ちが強いのだろう。

上記のインタビューを読んで頂ければわかる通り、この映画「All Eyez On Me」は「誰が見るか」によって感想が変わるのだろう。それは2Pacの人生がいかに多面的であったかを表しているようにも思える。その多面性が故に、彼の人生には恐らく一つではなく、様々な「正解」があるのだろう。その正解の一つであり、L.T. Huttonの視点が表現した「正解」というのが、「人間2Pac」であり、映画「All Eyez On Me」なのだと感じた。スヌープ・ドッグが2Pacの殿堂入りスピーチのとき、このように語っていたのを思い出す。

スヌープ:彼は強く、脆かった。頑固で、知的だった。勇敢で、臆病だった。愛に溢れていると同時に復讐的でもあった。革命的であった。そしてギャングスタだった。スピーチ全翻訳はこちら

スヌープが語っていたことが、映画を見て納得できたようにも思える。そんな「All Eyez On Me」は日本では12月29日に公開されるので、ヒップホップファンも、ヒップホップファンでない人も要チェックである。

http://alleyezonme.jp/

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