Playatuner代表が選ぶ2017年のベストプロジェクト10位〜1位!
2017年
Playatunerを運営しはじめて1年と1ヶ月ほどが経ちました。今年もたくさんの音楽がリリースされ、それに伴いPlayatunerでは2017年に650以上の記事を執筆し、アップすることができました。今年の前半は「少し濃いニュース」などが多かったですが、後半になるにつれ、「ヒップホップやアーティストの理念から何を学べるか?」という内容や、「前に進む糧」という、ヒップホップ・カルチャーのエンパワーメント部分にフォーカスして書くことに拘るようになりました。(ここについてはまた2017年総括代表ブログで書きたいと思います)
そんな「ヒップホップ・カルチャー」を題材としたエンパワーメント・メディアPlayatunerの中の人である渡邉航光(Kaz Skellington)が2017年の「お気に入りプロジェクト」25枚を選びました!アルバムだけではなく、ミックステープやEPも入っています。超悩んだので、漏れありまくりです。
10. SZA – Ctrl
今年が「飛躍の年」となったアーティストといったら完全にSZAの名前が出てくるであろう。説明する必要もないと思うが、SZAにはある意味今年のMVPをあげたい。何故SZAにMVPをあげたいかと言うと、彼女は「アーティスト」としての苦悩を赤裸々に公開しつつ、それでも前に進んだ姿がアーティストにとって共感と励みになったと感じる。自分の成長と作品の完成、そしてアーティストとして納得がいくものが作れない苦悩を乗り切り、2017年で最も偉大なアルバムの一つをリリースしたことが素晴らしいと感じる。グラミー賞も5部門ノミネートされており、いくつ受賞できるかが楽しみである。
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9. Vince Staples – Big Fish Theory
LBCの若手代表としての立場を完全に確立したVince Staples。インタビューでの堂々とした発言と彼の論理的な思考から多くのことを考えさせられた。彼は「誰にも擦り寄らない」で自分のやりたいサウンドで表現するアーティストとして、自分の軸を持っており、この作品は非常に楽しめるものであった。少しハウス/エレクトロなどの影響も感じることができる作品であるが、依然としてダークであり、参加しているKilo Kishの声もこの雰囲気にとてもよく合っている。
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8. Earthgang – Rags EP
J. Coleのレーベルと契約したアトランタのデュオ「Earthgang」。今年彼らは2つのEPをリリースしたのだが、そのうちの「Rags」が個人的にはランクイン。「いやEPじゃん!」と思う方もいると思うが、こちらが次世代のアトランタを感じることができた作品であった。OutKastが確立したアトランタスタイルがEarthgangのなかで生きており、そのダンジョン・ファミリーの魂と近年のトラップの良さが混ぜ合わさったアーティストとなっている。来年リリースされるであろうアルバムも非常に楽しみである。
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7. Thundercat – Drunk
Flying Lotusが率いる鬼才/天才集団「Brainfeeder」のThundercat(サンダーキャット)がリリースした新アルバム「Drunk」。「ナードでテクいサウンド」と「不真面目でイカれているリリック」のバランスとコントラストが素晴らしく、何回もリピートできるアルバムとなっていた。短い曲が目まぐるしく変わる展開は、「Drunk」という名前通り酔っ払っている感じもありながら、ふと気がつくと感じてしまう「どこまでも堕ちていく寂しさ」も表現されているように感じた。そのジェットコースターのような感情は、聞いていた飽きないものであった。
関連記事:Thundercatが「ラッパーが抱えるジレンマ」について語る
6. Jarren Benton – The Mink Coat Killa EP
Jarren Bentonは元々HopsinのレーベルFunk Volumeに所属していたラッパーであるが、Funk Volumeが解散してからは、自分でレーベルを運営している。そのため、なかなかメインストリームにて露出することはないが、リリシスト/MCとしてのスキルは一流である。彼は初期スリム・シェイディを思い出すようなクレイジーな言葉遊びを得意としており、リリックの言い回しが非常にクレバーだ。楽曲「Fuck Everybody」ではストリートでハードな態度をとっている人たち、実験としてフッドにクラック・コカインをばら撒いた政府、以前はピラミッドを作った人々であったがそのドラッグによってゾンビ化した自分の人種、そして今までそんなドラッグについてラップしていた自分に向けて「Fuck」と語っている。
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5. Jay-Z – 4:44
今年超話題になった作品の一つと言えばJay-Zの「4:44」であろう。実際に自分の周りではこのアルバムをあまり気に入っていない人も多かったが、個人的にはこのアルバムは映像作品と組み合わせて完成するものであると感じる。もちろん楽曲だけでも素晴らしいが、映像と音楽のパッケージ作品として、一段とレベルが高いものであった。最初に公開された「The Story of O.J.」は、O.Jシンプソンのように「俺は黒人じゃない、OJだ」と言ったとしても、世間的には「黒人」であることは変わらず、そこからコミュニティとして抜け出すためのアドバイスをラップしている。私が特に考えさせられたのは「Marcy Me」のMVであり、NYのフッドにおける黒人の子供の行動を追いかける警察の偵察ヘリコプターを描写している。その子供は大人たちから買い物のおつかいを頼まれ、夜道を走る。それをヘリコプターが追う。最終的に子供を追いかけたヘリコプターは、大人たちの居場所までたどり着く。実際にはたどり着くだけで何も起こらないが、視聴者は心のなかで、「何も起こらなくて良かった…」と感じるだろう。実際にYouTubeのコメントでも「何か悪いことが起きそうでドキドキしてしまった」というコメントが多い。それは歴史上で起こってきた一連の事件によって刷り込まれた考えだろう。警察が他の人種の子供とエンカウントしたとき、このような心配をするだろうか?このような社会の不条理をノスタルジックなMVで表しているように思える。
4. Tyler, the Creator – Flower Boy
前作「Cherry Bomb」は個人的に好きであったが、セールス的には振るわなかった。そんななか、Tylerは「Flower Boy」で「Goblin」以上の初週売上を達成し、今年のヒップホップリリースのなかでもトップレベルの成功を見せた。このアルバムはCherry Bombに比べたら攻めてる感は少ないが、Tyler, the Creatorらしい「後発的じゃない」サウンドとなっている。流行りの音楽を追うのではなく、自分にしかできないことをトータルコーディネートすることにより、深いところまでいく「ファン」が増えているのがわかる。
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3. J.I.D – The Never Story
J. Coleが彼のリリシズムに惚れ、J. Coleのレーベルと契約したアトランタの新人J.I.D。「え?このアルバムがこんな上位!?」と思う方もいるかも知れないが、彼は個人的に数年後のケンドリックになる可能性を秘めたラッパーであると感じる。その巨大な期待感を込めた結果、上位にランクインした。実際にアルバム「The Never Story」は最初こそは、「良いな」ぐらいのテンションであったが、何回も聞くうちに恐らく2017年で最も聞いたラップアルバムになるレベルで好きな作品となった。唯一無二の声、Mos Defも絶賛するリリシズム、若手No.1にもなれるレベルのフリースタイル、説明し難い独特の不気味な雰囲気、これらの要素を持ち合わせた若手は応援するしかなかろう。ラップスキルを全面的に押し出すだけではなく、「Hereditary」のような曲では聞かせるスタイルで自分と女性の関係を歌っている。あと一歩でメインストリームで大成功するところまで行けるように感じる。楽曲「Never」の後半のビートスイッチ後のフローが最高であり、彼が公開した2013年のミックステープ「Para Tu」も最高なので是非聞いて欲しい。
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2. Oddisee – The Iceberg
非常の過小評価されているラッパーでありプロデューサーのOddisee。このアルバムも日本では恐らくあまり話題になっていないが、トラックもリリックもラップも非常に好みである。オーセンティックなヒップホップでありながらも、近年のフューチャーソウルっぽいバウンシーな曲もあり、作品として非常に意味が込められたものでもあった。政治的なテーマも多いが、双方の視点からフラットに語っている口調でもあり、他のポリティカル・ラップとは違う雰囲気で「サウンド面」としても自然と楽しめるものでもあった。彼の「You Grew Up」という曲は、今後の社会において必見のメッセージである。
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1. Kendrick Lamar – DAMN.
今年はもうこの作品の年であった。ヒップホップ界での影響や、功績を考えると、この作品以外を1位にするのは難しいという想いをある。しかしこの作品も「4:44」と同様、映像作品と組み合わさって完全体になるパッケージであるように感じる。このアルバムからリリースされた映像はどれも素晴らしく、繰り返し見たくなるものであった。このアルバムがリリースされた時のハイプ、世界のヒップホップファン全員が彼の動きを予想し、考察している状況は非常にエキサイティングであり、その瞬間に立ち会えたことが幸福でもある。現代のグレイテスト・ラッパーの称号をゲットした彼であるが、今後どのようにそのレガシーを後世残すのかが楽しみである。
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Playatunerが選ぶベスト25はこのような結果になった。非常に個人的なリストになったので、現行のヒップホップを追いかけているファンには、とある疑問が浮かぶだろう。「え?今年多くリリースされたトラップの名作たちは?」という質問が飛んでくるのが想像できる。特に今年もアトランタの功績は素晴らしく、Future、21 Savage、Migos、2Chainzなど多くのトラップがリリースされ、ヒップホップファンたちを虜にした。実際に彼らの作品も好きではあるが、自分のトップ25に入るかと言ったら、かなりギリギリで入らないリストとなった。(もしトップ50で選んだら入っていたかも)
アトランタの快進撃は素晴らしかったが、私が今年感じたのは、別ベクトルの「アトランタの底力」である。アトランタと言うと、上記のトラップサウンドを思い浮かべる人が多いと思うが、この土地には様々な血が流れている。Futureも元々、サウス初のメインストリームアーティストOutKastが所属していたダンジョン・ファミリーの第二世代アーティストであるが、今年はダンジョン・ファミリーが植えた種が復活し、開花しはじめた年であるようにも思える。トラップと別方向で進化したダンジョン・ファミリーの「リリシズム」と、アトランタの最大の強みでもあるトラップサウンドの風味が混ぜ合わさり、J.I.DやEarthgangのようなアーティストがやっと世に出てきた。アトランタというとトラップのステープルイメージがあるが、実はJ.I.DやEarthgangも非常に「アトランタっぽい」サウンドなのだ。この「アトランタっぽい」というサウンドが別方向で複数あるのが、今後もこの土地の強みとなるだろう。アトランタの複数の方向性に期待と楽しみを込めた結果、このリストとなった。
その他のコメントとしては、個人的には「前作のほうが好きだったな」と思うアルバムも多かった。むしろ「スルメ」的なアルバムが多かったのかもしれない。そのなかで心残りとしては、ゆっくりと音楽を聞く時間が明らかに以前より減ったということである。記事を毎日書くために必至でアーティストのインタビューを大量に見ていたのもあり、目を閉じて家のスピーカーで音楽を聞く時間があまり取れなかったというのもある。これは非常に残念であり、来年はどうにかインタビューを見て、調べ物をしながらも、どうにかもっと音楽を聞くようにできるようにしたい。来年も音楽を生きる糧として前に進みたい。
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